9月30日 微笑まない国
6時30分に朝起きて、乗り合いバスで1時間ほどのムツヘタという街にいく。スヴェティツホヴェリ大聖堂とサムタヴォ教会、ジヴァリ教会の世界遺産の教会。ちょうど12時に到着すると教会の鐘がカランカランと鳴り響き、鳥たちが高く立派なドーム屋根から雲一つない空へ飛び立っていった。暑くもなく寒くもない気候。ここも観光客でいっぱい。
スヴェティツホヴェリ大聖堂は、ムツヘタの町のなかに鎮座ましましており、城壁のような石造りの塀に囲まれていた。教会の建て物も大きいが、さらにその二倍ほどの庭には、ちょうどいい距離感でベンチが3つ置かれており、地面は手入れされた緑で覆われていた。塀に沿ってローズマリー、ロシアンセージ、ザクロ、白や赤のバラ、イトスギなどが植えられていた。
緑の上で、犬は犬同士でじゃれ合い、子どもは子ども同士でじゃれ合う。大人たちは寝転び本を読んだり空をみたり。エデンの園はこんな感じなのだろうか。隣のカフェに入り、ワインを頼む。ここも森の中にいるような気分になる。風が吹いたら、様々な植物が揺れて、風に姿があるみたい。
帰りのバスを探しているとでダニエルというイタリア人と一緒になる。彼は髭を生やし表情が豊かで、手荷物は何ももってなかった。
彼は北海道にだけ言ったことがあるそうで。なぜ北海道か理由を尋ねたら、以前レストランのオーナシェフをしていたが、コロナで仕事がだめになった。そしたら精神的にまいってしまい、20人くらい医者に見てもらったが痩せる一方だった。ペルーのシャーマン?に見てもらったら改善が見られ、2年そこに滞在して、食事療法や瞑想で良くなったのだという。けれども再び社会に飛び込めなかったダニエルに、シャーマンはこの社会とはオーシャンだ。怖い怖いオーシャンだ。そこに飛び込むためには海の神さまのところにいくのだと勧められ、それが日本の北海道にあったのだそう。
私は、そんな彼の話をまじめに興味深く聞いた。
そして彼はどうしてジョージアの人々は笑わないのだ、いつもしかめっ面をしていて、いつも真面目な顔をしてると言った。この意見に私は心の底から共感した。街の雰囲気も素晴らしく、物価も安く、移動もしやすく便利な街であるはずなのに、未だにこの国に熱狂しない理由がそれだったから。
そんな国だからか、ダニエルの笑顔をみるたびに、こちらもうれしくなる。
夜になり、一緒にトモヤさんの店にいく。1週間ほど前、博多のBARで飲んでたときにジーヒョンさんという方に出会った。そのジーヒョンさんが、すごくいい人だからジョージアに行ったら訪ねてみてと紹介してくださった方がトモヤさんだった。
中心部から少し外れた静かなところ、坂道を上ってロープウェイのりばのすぐ近くまでいく。坂道に疲れて立ち止まると、ダニエルはニコニコしながら、足が疲れたらな、こうやって靴を脱いで、木にくっつけると良いぞと、実際に自分の素足を街路樹にくっつけて、ふぁーと力が抜けていく表情をした。足にたまった電気を放電できるらしい。
そのワイバーは、知らなかったら通り過ぎてしまいそうなところで、そっと営業しているワインバーだった。カウンターとテーブルが中に3つと外に2つ。壁にはワインが並び、ガラス張りになっていて、外からワイングラスをくるくる回す様子がよく見える。トモヤさんはここで働いており、すぐに出てきてくださった。トモヤさんは帽子にジーパン生地のエプロンを着けていて、笑うと猫の髭みたいに可愛い皺が入るひとだった。おすすめのアンバーワインと、コロッケ、パスタ、豚肉をソテーしたものをいただく。私もダニエルもお皿を洗う必要がないくらい綺麗に食べた。ダニエルは何度も白い歯を見せたくさん笑って、今日は出会えてよかったと言った。帰り際にもトモヤさんは厨房から出てきてくださり、写真をとったりしてさよならをした。ダニエルのほうが仲良くなっているようだった。
帰り道、携帯修理屋さんやアイスクリーム屋さんに寄ったりした。みんなしかめっ面だったから、二人して店員さんが笑うまで、サンキューを言い続けた。
そして、ダニエルのバスを待つ間、私は急に気分が悪くなり、少しだけ吐いた。