配偶者居住権1
配偶者居住権とは
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用又は収益を認めることを内容とする法定の権利です(民法1028条)。
配偶者短期居住権と異なり、当然には発生せず、また相続税に影響を及ぼす権利です。
2020年(令和2年)4月1日施行されています。
被相続人の配偶者が、被相続人の死亡後もそのまま自宅に居住したいという希望を有している場合に、遺産分割で、配偶者が自宅の所有権を取得する等で実現することがありますが、この場合、自宅の評価額が高額で、配偶者が生活資金などの現金その他の相続財産を取得できなくなるおそれがあります。そこで遺産分割の際に、所有権を取得する場合よりも低廉な価額で居住権を確保すること等を目的として創設されたと説明されています。
具体例
たとえば
法定相続人が配偶者と子の2人だった場合、法定相続分は1:1です。遺産が土地建物2000万円、預貯金3000万円の合計5000万円の場合、相続分はそれぞれ2500万円ずつになります。
この場合に、配偶者が土地建物(2000万円)を相続すると預貯金から500万円のみ相続することになります。
これを配偶者居住権1000万円と評価された場合、配偶者は配偶者居住権として1000万円、預貯金から1500万円相続することができ、子は土地建物の負担付所有権1000万円と預貯金1500万円相続するということになります。
要件(民法1028条)
1 配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと
2 その建物について、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈又は死因贈与(民法554条)がされたこと
いわゆる「相続させる」旨の遺言によることはできないとされています。
なお、家庭裁判所の審判で設定されることもあります(民法1029条)
存続期間(民法1030条)
原則として配偶者の終身の間です。ただし、遺産分割、遺言や家庭裁判所が審判で別段の定めをしたときは、その定められた期間になります。
権利の内容
1 配偶者は、無償で居住建物の使用及び収益ができます。
ただし、所有者の承諾を得なければ、改築・増築や第三者に使用収益させることはできません(民法1032条3項)
2 配偶者は、用法遵守義務、善管注意義務を負います(民法1032条1項)
3 配偶者が、通常の必要費(通常の修繕費や固定資産税等)を負担します(民法1034条1項)
4 配偶者居住権は、譲渡することができません(民法1032条2項)
対抗要件
配偶者は、配偶者居住権の設定登記をすれば、第三者に対抗することができます(民法1031条2項・605条)。
居住建物の所有者は、配偶者に対し登記義務を負っており(民法1031条1項)、所有者が登記に応じない場合、配偶者は登記手続請求の訴訟を起こすことができます。