配偶者居住権5~注意点・問題点
こんにちは。この記事を開いていただきありがとうございます。
配偶者居住権について要件などを述べてきましたが、繰り返しになるところもありますが、注意点・問題点の観点からまとめたいと思います。
1 当然には取得できない
短期居住権(民法1037条)とは異なり、当然には権利を取得できず、遺言(遺贈)か遺産分割によらなければなりません。
2 「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)では取得できない
被相続人と話し合い、遺言で配偶者居住権の設定を残してもらおうとした場合に、「配偶者居住権を相続させる」という文言では権利を取得できません。(民法1028条1項2号「遺贈の目的」)。
遺言作成時には注意が必要です。
3 特別受益となり、遺留分との問題もある。
持戻し免除の意思表示(推定)がなければ、特別受益となりますし、他の財産との関係で遺留分侵害となる可能性もあります。
4 譲渡できない
たとえば、まとまった現金が必要となり、配偶者居住権を売却して金銭を得ようとしても、売却(譲渡)することはできません(民法1032条2項)。
金銭化をする方法としては、居住建物の所有権者から配偶者居住権の放棄と引き換えに金銭の支払いを受ける方法が考えられます。
もっとも、適正な価額ではなく無償あるいは著しく低い対価であったときは、贈与とみなされ、贈与税が課される可能性があります(相続税法基本通達第9条関係9-13の2)。
議論の過程で、所有者に対する買取請求権を認めること等が検討されたそうですが、廉価で居住権を確保するというメリットが失われてしまうなどという指摘があり、見送られたそうです(一問一答新しい相続法29頁)。
もう一つの方法としては、居住建物の所有者の承諾を得て、第三者に賃貸をすることは認められているので、賃料収入を得るはできます(民法1032条3項)。しかし、自らが居住している建物に第三者を住まわせることができる構造なのか、そもそも所有者の承諾を得ることができるのかが問題となります。
このように存続期間の途中で消滅させようとするのはなかなか骨が折れるものになっています。自らの健康状態やライフプランを考えて、配偶者居住権の設定の要否、存続期間の定め等を検討する必要があると考えます。
5 評価(方法)でもめる可能性がある
評価方法が法律で定められているわけではなく、評価方法(と評価額)を巡って争いになる可能性があります。
参考になるものとしては、法制審議会民法(相続関係)部会・部会資料19-2で示されているものや公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会の研究報告、相続税法による評価方法(23条の2)がありますが、いずれの方法によるのか協議をする必要が出てくるでしょう。
6 相続税・以後の費用の負担が思ったよりもかかる可能性がある。
https://note.com/noboru_mizo/n/n0b0e876e2d77
でも書きましたが、配偶者居住権は相続税の対象となります。
相続税法の評価方法によれば、木造の建物の場合、既に耐用年数を超えていて、建物の価値(固定資産評価額)=配偶者居住権の額という場合が相当数あるものと想定されます。
また存続期間中の通常の必要費(建物の固定資産税、光熱費、保存に必要な通常の修繕費など)を負担しなければなりません。
7 第三者に対抗するには登記が必要
所有者が第三者に建物を売却したときに、配偶者居住権を対抗するためには登記が必要です。
8 終わりに
以上のように、様々な注意点・問題点があり、手続きも煩雑なので、配偶者居住権を設定しようとお考えの際は、弁護士・税理士等の専門家に相談・確認をされた方がよろしいかと思います。