東京タワー01

はぐらかした答えを正せる日なんてやってこなかったけど、正しい道へ進んでいると信じたい

「死にたいと思ったことある?」と彼女に聞かれたとき、あるにはあるけど…。とその後になんて答えたか覚えていないからきっと別の話をしたんだと思う。

その数日後、彼女のお母さんから電話がかかってきて昨日彼女が亡くなったことを告げられた。死因はバイクの事故。お葬式の日程を話した後に「娘の発信履歴の最後があなたの電話番号だった。そのとき何を話しましたか?」一瞬、時が止まった感覚がした。

「あ、私の仕事の話とかを相談したり…」とっさにそう答えたけれど、話の趣旨はそんなことではなかった。あの晩、彼女から付き合っていた人と別れたという報告だった。電話口で彼女は泣いていた。

彼女はアルバイト先の上司と数年間不倫をしていた。彼女とはそのアルバイト先で知り合った友だちだったから相手のことも知っていた。

心配になって土曜日に会いに行こうかと思ったのに結局行かなかった。電話があったのはその次の日、日曜のお昼過ぎだった。

電話を終えた後、不倫相手の人に電話をし彼女の話を告げ会いに行った。でも何を話したのかもう覚えていない。新宿のどこかの公園で、その人は頭を抱え、彼女との電話の内容、彼女のお母さんに聞かれたことを話しながら、なんでこんなことになってしまったんだと。そんなこと言ってたように思う。

その後、彼女のバイクが停めてある場所に向かったらバイクは無傷でその場所にあった。彼女のお母さんに電話をして近くにいるので会わせて欲しいとお願いしたけれど断られた。共通の友だちと合流しその日にバイク事故があったのか調べに行くと言い警察署に向かったが、その日にバイク事故はなかったと教えてもらったそうだ。私は車の中で待っていた。

その後、彼女のお母さんと仲良くなり、何度か家に遊びに行ったけれど詳細を話すことはなかった。

ある日、彼女の家で話しているときに「娘の大学時代の友だちから聞いたんだけど、娘がAさんと付き合ってただなんていうの。まさかね、だってAさん結婚しているのよ」と。

「いやーーないっすよそんなの」またとっさに答えたけど、そのAさんは彼女の不倫相手だ。彼女のお母さんはAさんと面識があって結婚していることも知っていた。2回目の嘘をついたとき、これが本当に正しいことなのかわからなくなった。どんなことでも知りたいと遺族なら思うだろうから。

でも、言えなかった。言おうとしたことはあったけれど無理だった。自分だったらどうかとも何度も何度も考えたけれどそのシュミレーションは無意味だ。だって、私は娘を亡くした母親の経験をしたことがないし、同じ経験をしていたからといって同じ気持ちになんて絶対なれない。結局、最後まで嘘をつき通した。

彼女のお墓を私は知らない。

亡くなってから1,2ヶ月ぐらいのときに、お墓にいれずに骨はずっと家で保管すると話していた。

彼女の家からの帰り道、友だちがふと「お墓があればたまに会いに行けるのね」とつぶやいた。本当にそうだなと思った。いつでも遊びに来てねとご両親は言ってくれたけれど、そうそう行けるものでもなくだんだんと足が遠のいていった。

あれから15年、思い続けていることがある。
私は彼女の問いを何故はぐらかしたのか。どうして、彼女の気持ちを聴くことができなかったのか。彼女が本当に話したかったことをたとえ聴けていたとしても何も変わらないかも知れない。けれど、「はぐらかした」事実だけは刻まれている。

言葉を尽くしたいとそう思い続けているのは、あのときはぐらかした自分を慰めるためでもあるように思う。

今日、Twitterで坂口恭平さんのツイートを見ていたら、久しぶりに彼女のことを思い出したから、初めてそのときことを書いてみた。

※このツイート、もっと続きがあります。

10年ほど前、死にたいなどつらい気持ちの話を聴く電話相談員をやっていたことがある。死にたい気持ちに寄り添い、アドバイスを自分からはしない、など相談員としてもカリキュラムで培ったほどにしか傾聴ができず、坂口さんのように自分のポリシーを持って向き合うことができなかったことを思い出していた。

来月から産業カウンセラー養成講座が始まる。eラーニングで勉強・課題提出に加え、月に2,3回、面接の体験学習ということで傾聴の講座がある。こういう勉強をするのは10年振りで、高校生の頃、大学へ行けなかったことが別の形でやっと実現できる。

わだかまりは、勉強をし何かを実現できたときに解けると信じているから養成講座が終わる4月、どんな変化があるのか楽しみだ。

いいなと思ったら応援しよう!

サーシュ
最後まで読んでいただきありがとうございます。頂いたサポートをどのように活用できるかまだわからないです・・・。決まるまで置いておこうと思います。