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『石・うまれてきた意味』 #時を縫う奇瓢譚
むかしむかし、あるところに、小さな石ころが転がっていた。丸くもなく、四角くもなく、ただのごつごつした石ころだった。
石ころは、ふと思った。
「おれは、なんのために生まれてきたんだろう」
風が吹いても、木の葉は揺れるのに、おれはただそこに転がっているだけ。雨が降っても、おれは濡れるだけ。だれもおれに気づかないし、おれもだれにも気づかれない。
「おれは、意味のない石ころなんだ」
ある日、一人の旅人がその道を通った。旅人はふらふらと歩きながら、石ころにつまずいた。
「いてっ!」
旅人は転んで、持っていた荷物をばらばらと落としてしまった。
旅人は怒るかと思いきや、落ちた荷物を拾いながら、ふと笑った。
「おかげで気づいた。この荷物、背負いすぎてたな。少し減らして歩こう」
旅人は荷物を整理し、軽くなった背中で再び歩き出した。足取りはさっきよりずっと軽やかだった。
石ころは驚いた。
「おれ、いま、役に立った?」
それからも石ころは、誰かにつまずかれては、怒られたり、笑われたり、立ち止まらせたりした。つまずく人はみんな、それぞれに何かを考え、何かを見つけていった。
石ころは、やっとわかった。
「おれは、意味のために生まれてきたんじゃない。おれがここにいるだけで、意味は勝手に生まれてくるんだ」
それから石ころは、ただ転がりながら、少しだけ誇らしい気持ちでいるのであった。