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『若武者と娘』 #時を縫う奇瓢譚 #note書き初め



むかしむかし、戦国の世も騒がしい頃、新橋の里に『ダイビング』という妙なる術を習う集いがございました。

その術を習得せんと、里から里へと旅する一人の娘がおりました。名を何と申しますやら、行動的で気風の良い娘でございましたが、恋愛に関しては慎重に慎重を重ね、簡単に男に心を許すようなことはございませんでした。

ある日、娘は二泊三日の「水中術の修練」に参加いたしました。その集いは新橋の館にて始まり、参加者は四人。皆それぞれ里の違う者たちでした。

館の前にて、一人の若武者が娘に近寄って参りました。

「そなた、一人で参ったのか?」妙に親近感の湧くにっこりとした笑顔で娘に声をかけた。

「ええ、そうですが?」笑顔は見せつつも、娘は心の内ではこう思うのでございます。(いかにも。しかし私、そなたにさしたる関心はないですけど⋯⋯)

馬車に乗り込み修練場へ向かう途中も、娘は他の修練者たちと話し笑いを楽しむばかりで、若武者には目もくれません。

さて、修練が始まると、まずは水桶での「潜水術」の鍛錬から。娘はこの術を習うのが楽しくて仕方がなく、夢中で訓練に励みました。若武者も同じ場におりましたが、娘はただただ術の精進に心を尽くしたのでございます。

夜に行われた講義でも、若武者は静かに話を聞いておりました。その様子に娘はこう思ったとか。(ふむ、真面目そうではあるけれど、それだけだわね)

最終日、広大なる海の場にて「水中術」の仕上げを行いました。娘はその美しき景色と水の中の生き物たちに心を奪われ、この修練に参加してよかったと満足げに思ったのでございます。

修練を終え、新橋の里へと戻る帰り道。ふいに娘は、若武者に向かってこう言いました。

「この術を得たからには、次なる術を習得せねばならぬわね」

若武者は少し驚いた様子で問いました。

「次なる術?いったい何を?」

娘はにっこりと笑い、こう答えました。

「そうね、崖から飛び降りる『バンジージャンプ』なる術はいかがでしょうか?」

若武者は少し眉をひそめましたが、やがて「面白い、付き合おう」と笑って承諾いたしました。

後日、二人は大きな崖へと赴きました。先に飛び降りたのは娘でした。

「ほら、早く来なさい!」と下から声をかけると、若武者は少したじろぎつつも、勇気を振り絞って飛び降りました。その様子に娘は思いました。(ふむ、私に付いて来れる度胸があるなんて、なかなかやるわね)

娘はこの日を境に若武者に対し、尊敬の念を抱くようになりました。



そして時は流れ、二人は結婚。共に過ごす日々が始まりました。しかし、ある日、娘がこう言いました。

「ねえ、今度は崖から二人で飛び降りる『ダブルバンジー』なる術に行くのはどうでしょうか?」

若武者はちょっと目を丸くしましたが、やがてにっこりと答えました。

「いいね、それ、やろう!」

その後二人は、あらゆる崖から飛び降り続けました。飛べば飛ぶほど、娘は、どんな高さの崖でも物足りなくなり、(もっともっと高みを目指した術を学びたい!)と思うようになりました。

そしてついに、ある日、娘は言いました。

「次は宇宙で、『無重力の術』とやらを学びたいわ!」

若武者は少し考え込んだ後、にっこり笑顔で答えました。

「よし!では宇宙へ参るか!」

その後二人は、予定など決めることなく、その日その日を楽しみ、新しい術を学びながら、仲良く暮らしているのだとか。

めでたしめでたし。

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