『倍返しの駄菓子屋』_笑えない未来の奇瓢集
とある下町の路地裏に、駄菓子屋の「山盛屋」があった。『オヤジ』こと山盛シンイチは、年季の入った店主だ。顔にはいつもニヒルな笑みを浮かべている。
駄菓子屋とはいえ、オヤジの接客は一筋縄ではいかない。池井戸潤の作品、『半沢直樹』を彷彿させる鋭い眼光と、返す言葉の毒っ気で有名だった。
ある日、常連の小学生・タケシが来店した。
「オヤジ、10円のうまい棒1本な!」
「おい坊主⋯⋯この店ではうまい棒の値段は10円だけど、気持ちが入ってなきゃそれはただの『棒』だぞ」
オヤジがじっと睨むと、タケシは少しビビりながら言い返した。
「じゃ、気持ち代も入れて⋯⋯はい、11円!」
「ふん、その1円にお前の誠意があるかどうか、試してみるか?」
オヤジは手に持ったうまい棒を目の前で真っ二つに割った。
「ほら、半分にしたぞ。この店では『倍返し』ならぬ『半返し』だ!」
タケシは目を丸くしたが、すぐに負けじと答えた。
「じゃあ、オヤジの気持ちも半分しか入ってないってこと?」
店内に沈黙が流れた⋯⋯かと思いきや、オヤジはニヤリと笑った。
「坊主、よく言った。その反骨精神、駄菓子屋界の革命児だな。うまい棒、一本おまけだ」
そう言って、オヤジはタケシの手に2本のうまい棒を握らせた。
タケシが店を出ると、近所に住む、おばあさんがオヤジに声をかけた。
「山盛さん、あんなにサービスして大丈夫なの?」
オヤジは笑いながら棚を指さす。
「ババア、見てみな。賞味期限、あと2日だ」
彼の店は今日も黒い笑いで満ちているのだった。
めでたしめでたし。(なのか?)