捨てる


捨てたのは、父。

捨てたって言ってるけど、
そもそも捨てられてたっていうか大事にされたことはなかった感じ。

小さい頃はずっと殴られていたし、
父は長子である自分以外には手を出さない律儀な面もあった。
彼は、自分が失敗してきた人生の代わりにわたしを成功させたかったらしい。
わたしは不運にも彼に似て不器用であったため、しばしば彼に殴られた。

彼に殴られているとき、母は沈黙だった。
あとから、彼がより激昂しないために口出しをしなかったのだと聞き、
確かにそうだと思うと同時に、味方のいない環境で暴力に耐えている当時の自分を哀れに思った。

意外と勉強ができることがわかったあとは、彼は人が変わったように機嫌がいい日が増えた。
わたしは市内で1番頭のいい(彼の母校でもある)高校の、1番頭のいい科に、最も倍率の高かった受験方法で合格した。

彼はさぞ嬉しかったろう。
近所に自慢して回っていたが、わたしの努力を直接褒めたことはなかった。
しかし当時のわたしは彼が嬉しそうにしていて嬉しかった。

この頃から、失敗が怖くなった。
もし受験に失敗していたらどうなっていただろうか考える。

大学は九州で1番頭のいいところを受けた。
ほんとはもっと遠くに行きたかったが、九州からは出ないでと言われた。
受験勉強中に鬱になったが、それでも這いつくばって合格した。

彼は、より嬉しそう。
福岡に住む彼の昔の知人に会わせようとしてきた。

どうだ、俺の娘は立派だぞ。
俺がいい父親だったからこんなに立派(な肩書を持った)娘に育ったんだぞ。
、と言わんばかりの態度。

大学に通うため実家を出て、
初めてわたしは、
怯えなくていい顔色を伺わなくていい生活を手に入れた。
彼との関係が歪だったことも認識した。

そこから数年は実家には年末に2日くらいしか帰らなかった。
実家にいるとわたしはわたしでいられない気がした。
でも家族にこの気持ちを伝える必要はないし、このまま家族ごっこを死ぬまで続ければいいと本気で思っていた。

その分、わたしは彼氏に依存した。
いわゆるメンヘラというものらしい。
自傷行為こそしていないものの、
死んでやる!だのお前はわたしをわかってくれない!だの、完全にそれだった。
彼氏の注目を浴びたくて浮気もした。

これはわたしの、遅めの子供時代で、
なんでも許してくれる彼氏にどっぷり依存し、
彼の愛情を確かめるためわがままと浮気を繰り返し、そして見捨てられそうになったら泣き叫びまた愛情を確かめた。
すごく申し訳ないことをしたが、当時の彼氏には感謝している。
わたしが過ごしたかった幼少期を過ごさせてくれた。
当時のわたしは承認欲求のモンスターだった。



大学では運動系の部活に入った。
みんな本気で、わたしも本気だった。
結果が出ないと落ち込み、無理をしすぎて何度も倒れた。
結果を出さないとここにいる意味はないと思った。
結果を出さないならば死んだ方がマシだと思った。

それを何度か経験して、ようやく自分を省みた。
わたしはアダルトチルドレン、
わたしはHSP、
わたしは愛着障害、
わたしは正常ではない、

そう思ってから、独学ではあるがそれらとその克服方法について学んだ。

捨てたのは、そういうおかしい自分。

大学を卒業する頃にはだいぶ正常に近づけた。
ただ、ストレスに弱いことはなかなか治せない。
ストレスがかかると誰かに寄りかかって全てを認めてほしくなる。



そんな爆弾を抱えたままではあるが、社会人になった。
会社は大手メーカー。
父はやはり、親戚中に自慢をして回っていた。
わたしの給料を全員に言いふらしていたり、福利厚生がどんなにいいかを語ったり。
会社を選ぶ時も、わたしは父の呪縛を解けない。

しかし会社の人は皆いい人で、
ナチュラルなセクハラはされつつも(男社会だったため仕方ない部分はある)、みんなといい関係を築けていた。

そんなとき、会社の同僚から性被害を受けた。

おかしな自分はなかなか捨てきれていなかった。

もう終わりだと思って自死を試みた。
誰にでもいい顔をする自分のせいだ。
あの日飲み会に行った自分のせいだ。
人の機嫌が気になっていつもいい子でいた自分のせいだ。



続き↓

いいなと思ったら応援しよう!