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#短編小説

湖西線に乗って

湖西線に乗って

しんとした水面は凍っているかのような静けさをたたえて微動だにしなかった。これがすべて淡水だなんて信じられないな。それが初めて琵琶湖を目の前にした感想だった。湖の西側を走る車窓からは海のように広がった湖面が見えていた。そこには海にはない透明感が漂い、ある種の色気のようなものがあった。
祐司は揺れる新快速で北に向かっていた。用事は顧客先への訪問だったが、多忙な仕事で張り詰めた神経に束の間の休息を与える

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コーヒーとミルク

コーヒーとミルク

怜子は写真が嫌いだった。自分の顔がどうしても気に入らず、気持ち悪いとさえ思うことがあった。周りを見ても決して見劣りするわけではないその容貌はむしろ多くの異性から好感を寄せられるものだったが、本人からしてみれば、「なんでこんな私を。」という気持ちだった。怜子が自分自身を見る時、そこには醜悪な自分が映っていた。誰かに打ち明けることもできなかった。

榮二は怜子に好意を寄せる一人だった。サークルで知り合

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