千春/紅もぐら

1000文字小説を書いています。日常に潜む気づきをたくさん描けたらいいなと思っています…

千春/紅もぐら

1000文字小説を書いています。日常に潜む気づきをたくさん描けたらいいなと思っています。よろしくお願いします(*´ω`*)

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最近の記事

手紙 〜綴〜

キィィイイイイイ! つんざくような急ブレーキの音で目が覚めた。 まただ。頭の中ではその音がずっとこだましている。いつもこの夢で目が覚める。やまない耳鳴りと頭痛。こんな人生さっさと終わればいいのにと顔を洗うよりも先にそんな思いが頭をよぎる。今日もまたのうのうと朝を迎えてしまった。 美音がいなくなったのは7年前。ある日の帰り道に僕と分かれた後、大型トラックにはねられて即死だった。遠くでブレーキ音を聞いた僕は物騒だなあとぼんやり思っただけだった。 遺体は見ない方がいいと言われた

    • 喪失に唄う冷たい雨

      外では静かに雨が降り続いていた。 今朝の夢は美音の夢だった。白い光に包まれて遠ざかっていく彼女。手を伸ばしたが、僕にはその手を掴むことが出来なかった。そのまま光に吸い込まれるように彼女はいなくなった。 はっと目を覚ますと、時計は朝7時を回っていた。目を閉じればもう一度彼女が現れるような気がしたが、期待とは裏腹にただ真っ暗な世界が広がるだけだった。遠くに雨の音が聞こえる。憂鬱に押し潰されて起き上がれなかった僕は、その日会社を休んだ。 「美音に会いたいよ。」 ごろんと転がっ

      • 湖西線に乗って

        しんとした水面は凍っているかのような静けさをたたえて微動だにしなかった。これがすべて淡水だなんて信じられないな。それが初めて琵琶湖を目の前にした感想だった。湖の西側を走る車窓からは海のように広がった湖面が見えていた。そこには海にはない透明感が漂い、ある種の色気のようなものがあった。 祐司は揺れる新快速で北に向かっていた。用事は顧客先への訪問だったが、多忙な仕事で張り詰めた神経に束の間の休息を与えるささやかな旅のような気がしていた。 先日、祐司は友人に連れられて演劇を見に行っ

        • コーヒーとミルク

          怜子は写真が嫌いだった。自分の顔がどうしても気に入らず、気持ち悪いとさえ思うことがあった。周りを見ても決して見劣りするわけではないその容貌はむしろ多くの異性から好感を寄せられるものだったが、本人からしてみれば、「なんでこんな私を。」という気持ちだった。怜子が自分自身を見る時、そこには醜悪な自分が映っていた。誰かに打ち明けることもできなかった。 榮二は怜子に好意を寄せる一人だった。サークルで知り合った二人はお似合いとまでは言わないが、他のメンバーより近しい関係だった。ある日、

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