コーヒーとミルク
怜子は写真が嫌いだった。自分の顔がどうしても気に入らず、気持ち悪いとさえ思うことがあった。周りを見ても決して見劣りするわけではないその容貌はむしろ多くの異性から好感を寄せられるものだったが、本人からしてみれば、「なんでこんな私を。」という気持ちだった。怜子が自分自身を見る時、そこには醜悪な自分が映っていた。誰かに打ち明けることもできなかった。
榮二は怜子に好意を寄せる一人だった。サークルで知り合った二人はお似合いとまでは言わないが、他のメンバーより近しい関係だった。ある日、2人で買い物に出かけていた。
好きな洋服をチラチラとウィンドウショッピングした後、歩き回った2人は休憩しようとすぐに目に入ったコーヒーショップに入った。
自動ドアに映った自分の顔に怜子はショックを受けたが、榮二はそれに気づかなかった。怜子は自分を持て余して、思い切って榮二に聞いてもらおうと思った。榮二なら明るく笑い飛ばしてくれそうな気がしたのだ。
「ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
「ん?」
榮二は突然の雰囲気にドキッとした。
「実はさ、私自分の顔が好きになれないの。写真とか鏡とか自分の顔が気持ち悪いって思っちゃう…。」
「気持ち悪い?全然そんなことないけど?」
「そうかな…でも自分に自信が持てなくて…。」
少し沈黙が流れた。やはりこんなこと言うべきじゃなかったのかもしれない。気まずい雰囲気にしてしまった。怜子は後悔した。
「ケーキの写真撮ろっ。」
榮二はおもむろにスマホを掲げた。
「ほらっ、そっちも早く食べないと俺が代わりに食べちゃうよ~。」
怜子は不意打ちの冗談に笑ってしまった。
2、3枚写真を撮ると、榮二は怜子にスマホを突き出して写真を見るように促した。怜子がスマホを手に取ってみると、そこにはケーキではなく幸せそうに微笑む怜子の姿があった。
かわいい。自分でいうのもなんだか気後れするけど、そこに映る怜子は可愛く撮られていた。私がこんな顔をしているなんて。はっとして榮二の方を見ると、彼は満足そうに笑っていた。
私はこの人の目にはこういう風に映っているんだと思うと、うれしいような、気恥ずかしい気分になった。
「ありがとう。」
怜子は写真と同じ笑顔で榮二に微笑んだ。
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