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儲かる産業と儲からない産業:提供価値との乖離は埋まらないのか

「飲食店の倒産件数が増加」というニュースが出ている。どうようの「xx店の倒産件数が‥」というニュースは毎月のように出ているのをニュースアプリでよく見かける。しかしながら、こうした業態は偏っており、倒産しやすい産業(ビジネス)というのが存在するのではないかと思う。


儲かる産業と儲からない産業

世の中には、「儲かる産業」と「儲からない産業」が存在する。同じような規模の企業で働くサラリーマン、または個人でビジネスを行う個人事業主、立場は違えど、平均給与は業界によって大きく異なり、倒産確率もかなり異なる。また、「優秀な人」が必ずしも同様の給与を受け取れるわけではなく、平均給与は、まず産業によって平均的な水準が決まり、この中で優秀な人は比較的高い給与を受け取る。これが現在の日本社会の給与水準の構図である。
パッと思いつく、儲かる産業といえば、「金融業界」や「医薬品業界」といった規制に近しい業界や「総合商社」といった業界、また近年では「テクノロジー業界」も給与水準が高い業界だと言われる。
一方で、儲からない業界といえば、「農家」や「漁師」のような一次産業、また「飲食業界」や「旅行業界」、「介護業界」、もしくは安定性はあるものの「公務員」も給与水準が高いとは言い難い業界だろう。

給与水準と生産性

昨今は、インフレにより、実質賃金や名目賃金の議論が盛んに行われるようになってきた。「日本の賃金はこの30年間上がっていない」という問題だ。この問題に対する答えとしてまた議論されているのは、「生産性を上げることで賃金をあげよう」ということだ。企業の売上がかわらない、または多少上がった際に、収益構造がかわらないとすると、給与水準をあげていくには、一人当たりの売上高(利益)を挙げていかなければいけないということだ。これは、マクロで見た際に最もな話であり、労働生産性の向上を進め、給与をあげていくというアプローチは継続していくべきアプローチであると思う。
しかしながら、「給与=生産性」と考えた際には、給与が高い業界と低い業界を比較した際に、給与が高い業界が生産性が高いということなのか?という疑問が出てくる。「美味しいお米をつくっている農家」と「投資家に株を売っている証券マン」は、生産性が異なる故に給与水準が異なるということなのだろうか。美味しいお米と株の価値は異なるのか。本当に株式を売る方が美味しいお米をつくるより困難な仕事なのだろうか。あくまで個人的な意見だが、必ずしも業務の困難さや提供価値の違いが給与水準の差異につながっているとは思えないのが実際である。ここの例だと、日本のお米は世界に誇るべき逸品だと思う。

日本の外食は安すぎる「ビックマックカレンシー」

日本で働く海外のひといに、よく言われるのが「日本の外食は安すぎる」ということだ。500円あればお腹いっぱい牛丼が食べられ、1000円あれば十分な定食を食べることができる。
貨幣価値を語る上でもしばしば用いられるものに「ビックマックカレンシー」というものが存在する。マクドナルドのビックマックが各国でいくらで販売されているかを指標として比較するものだ。各国の貨幣価値や物価を計測する具体的な指標だが、外食の価格帯を比較するのにも活用できると思うので、少し見てみたいと思う。
イギリスの経済専門誌「The Economist」から2024年7月に発表された、最新のビッグマック指数を見てみると、1位はスイスで1,214円。アメリカは7位で856円。日本は44位で480円。為替の影響(1ドル150円で計算)は、多少はあれど、やはり日本の物価、はたまた外食の価格はやはり非常に低いのである。アメリカでは500円をもっていても、ビックマックを買うことはできない。同じマクドナルドのビックマックでも約1.5倍の値段がするというのが現実である。
こうなると、極論だがマクドナルドの1人の店員さんが例えば1日50個のビックマックを作って販売したときの売上高には1.5倍の差がつく。原価や賃料の差異も当然あるので一概には言えないが、米国のマクドナルドの店員さんの方が給与水準が高くても納得がいってしまう。どちらの店員さんも1日50個のビックマックを作って販売しているのにも関わらずだ。

仕事の業務効率よりも価格の見直しによる生産性向上

既に述べたように業務効率改善という面での生産性向上の努力は継続的にしていかなければ行けないと思う。一方で、「日本は外食が安すぎる」というように、提供価値と価格帯の間に大きな乖離が起こってしまっているものの是正をして行けなければいけないと思う。提供価格の上昇により売上高を上げて結果として労働生産性も上がり、給与も上がるという道である。「価値に見合った価格で商品・サービスを提供する」ことができないのか。
2024年に話題となったのは、米不足である。政府は数年分の米を備蓄米として有事に備えて蓄えている。しかしながら、今回の米不足で、備蓄米を放出しなかったのは、「米価格の崩落を避けたかったから」ということだ。日本政府・農林水産省は、米の価格を継続して上げていき、農家が儲かりやすいような状態を作り、1次産業を守り・育成していくという戦略に基づき、価格を上げられるような努力をしてきた。これが備蓄米放出で崩れてしまうのを避けたかったそう。備蓄米放出の是非はさておき、価格の是正による所得の上昇を図るというアプローチは実際に政府主導で一部なされており、進められている。やはり価格なのだ。

ビジネスモデルと競争環境、そして労働者のやる気の搾取

では、こうした提供価値と価格との乖離はどのようにして起きてしまうのか。理由は多くあるとは思うが、ひとつの理由は「ビジネスモデル」かもしれない。一次産業を中心に数十年も前に構築したJAや漁協といったモデルを良い部分を残しつつ時代に合った形へのアップデートが必要なのかとも思う。ネットを使った直販モデルやブランド育成などを下にした価格上昇や利益率向上は、「儲かる一次産業」に向けて既に動き出している部分かと思う。かつての日本人の食料確保という側面からいかに儲けを作っていくか、競争も含めて一次産業の構造をよりビジネスに近づけていく動きはひとつの解決策になるだろう。
しかしながら、「飲食」等の産業は、政策とは距離を置いた自由資本市場の中にあるものの、儲けにくい状態が続いてしまっている。これは、厳しい競争環境が永続的に続いており、価格を下げ、この低価格でビジネスを維持するに、給与を下げ、価値に見合わない水準で働くこととなる。これが起きている業界は、好きなひとが多くやりたいひとが多い業界で、労働需給バランスが崩れやすい業界である。いわゆる「やる気の搾取」が起きやすく、これによって成立している。
全体的な人件費を抑えつつも多くの店舗が経営を継続しているという状態が続いているのがこれら業界の特徴である。しかしながら、昨今の人材不足で、こうした業界は人材確保に苦戦している。特にアルバイトにとっては残念ながらこうした業界は人気が低い(社員・個人事業としては人気だが…)。競争力の高い賃金を支払わなければ人手不足に陥り、店舗をたたむというケースが増加していることが、冒頭に挙げた近年の飲食業倒産に繋がっている。無論、すべての飲食業を始めとするこうした業界にに健全な経営が行えるような状態になり、しっかりと価値に見合った(世界的に見ても日本は美味しい!サービスも素晴らしい!)収益を稼いで欲しいという前提で、現在の「低価格・価格競争→低賃金→人手不足→閉店・倒産」というサイクルを止めて変えていくためには、やはり「価値に見合った価格」をしっかりととっていく流れを業界として作っていくしかないのではないかと思う。「やりたい人が多いから」「楽しいから」給与が低くてしも仕方がないという、労働者のやる気に甘んずることなく、価値に見合った価格帯の業界をいかにしてつくれるかというチャレンジに継続的に向き合っていかないといけない。

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