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【映画感想】ドントムーヴ

前情報は全く入れずにNetflixで視聴。

 既婚の女性が早朝に―――夫をほったらかしにして―――自動車で一人州立公園を訪れる。断崖絶壁の頂上は素晴らしい見晴らしながら、幼い少年の遺影が映り込む。女性(アイリス)は思いつめたような表情で崖から下を見下ろす。すると傍から見知らぬ男性が……と序盤の展開は息もつかせぬスピードで、思わず画面を食い入るように見てしまった。導入部分は非常に面白い。

 男(リチャード)に筋弛緩剤を注射され身体が動かなくなってくるアイリスは、なんとか力を振り絞り、河に流されて逃走を図る。逃走した先では、老人にかくまってもらう。この時点で身体はほぼ動いていないのだが、ひたすらリチャードから隠れ逃げているので、そもそも動けてもあんまり関係ないような気もする。ただ、限られた身体の動きを駆使しながらの逃走劇は「自分だったらどうしよう」と考えながら楽しむことができた。余談だが、ぼくがこういったスリラー・サスペンス・ホラーものを見る時は「自分だったらどう動くか」ということを常々考えてしまう。老人に匿われた家は放火され、あやうく巻き込まれそうになってしまったアイリスは、敢えて自分の存在をアピールすることで、その難を逃れる。この逆転の発想が大変面白い。ここまでは――当たり前ではあるが――いかにして自分の姿を隠すかということを徹底的に提示しておき、ここでそれをひっくり返すのだ。

 しかし、後半になるにつれて色々細かい点が気になってくる。身体の自由が少しずつ戻ったアイリスはなんとかシートベルトを外すものの、逃走までは至らない。当然シートベルトが外れたことはリチャードにバレてしまうが、リチャードはそのまま何事もなかったかのようにシートベルトを戻すのである。この時点でアイリスの身体が自由になりつつあることに気づきそうなものだが・・・即ち結束バンドで拘束し直すとか、注射を打ち直すとか、対策をとっても良さそうなものなのにと思ってしまった。
 また、あれだけ注射後から麻痺に至る細かい情報をつらつらと述べていたのに、回復についてはまったく考慮していないのも違和感が残る。

 リチャードはパトロール中の警官を決死の覚悟で返り討ちにするが、警察は普通2マンセルで動くのでは?という点も気になってしまった。最終的にリチャードはアイリスに返り討ちにされてしまうが、アイリスの反撃に対しての警戒が薄すぎるような・・・重箱の隅をつつき過ぎているのかもしれないが、一つ気になる点が出てくると次から次へと湧き出てしまうものである。
 
 そして全編を通して最も気になるのが、リチャードの動機だ。一体彼はなぜそこまでしてアイリスに執着するのか、結局最後までそれが明かされることはなかった。元恋人の死をきっかけに自分が”神”になったような錯覚に陥り、その快楽を何度でも味わおうとするのは、共感は当然全くできないが、理解はできる。ただ、それがアイリスである必要はないと思うのだ。(アイリス本人も述べている通り、アイリスはリチャードの名前も住所も知らず口封じする必要もないような・・・)
 それが奥歯にものが挟まったように、しこりとして残ってしまった。

 ただ、ラストシーンは余韻や解釈の余地があって非常に良かった。アイリスはリチャードを返り討ちにした後、「ありがとう」と言い放つ。これはリチャードが元恋人の死に際に伝えた言葉と同じだ。では意味も同じなのだろうか。もし同じだとした場合、それはアイリスもまた”神”になってしまうということだ。究極的にはリチャードのように、殺人を繰り返してしまうかもしれない。では、異なる意味だとしたら。それは自ら人生の幕を下ろそうとしたアイリスに、再び『生きたい』という気持ちを思い出させたことだ。考えればもっとほかにもあるかもしれないし、当然正解はない。このような解釈の余地を残すエンディングが、ぼくは好きである。

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