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【映画感想】本心

 全作品追っているわけではないけれど、お気に入りの石井監督の作品ということで、期待値を高めての視聴。鋭い社会風刺や、メッセージ性を感じられる石井テイストでありながら、ややテーマを詰め込みすぎた感は否めないか。原作は未読であるが、パンフレットを読んだ限り、やはり『要素の多層性』をどう扱うかがポイントだったそう(最大の強みであり、映画に変換する上での弱点という記載)。

 そういった裏事情というか作品としての意図は分かったうえで、ちょっと勿体ないかな、と思ってしまった。映画化するうえで、もうちょっとテーマを絞って深堀りする方が、より説得性を持たせることができたと思う(が、色々考えた結果、この感想は逆転する)。

 ヴァーチャル・フィギュアや自由死、リアル・アバターなど、どれも――現代日本から容易に連想できる題材であったとしても――架空の存在をここまでリアリティを持たせて映画という媒体で表現する術は流石だと思う。特にリアル・アバターの、近未来的であるはずなのに、世間に溶け込めていない滑稽さ、もう少し強い言葉を用いるのであれば、嘲笑の対象にもなりかねない異質感。こちらもパンフレットよりあるモチーフをイメージとしたと記載があり、なるほどと納得した。恐らく撮影時期とはずれるのかもしれないが、今まさに世間を脅かしている”闇バイト”との繋がりもまた考えずにはいられない。人間社会が電子の海に飲み込まれるほどに、肉体の希薄化も加速するだろう。リアル・アバターはその極地かもしれないが、闇バイトもまた無関係とはいえないと思う。自分というたった一人の人間がその身で行うことというのは、どうあっても代えも取り返しもつかないのに、それすら理解できなくなっているのではないだろうか。

 もっともそれを生む一つの原因が格差社会と貧困層であるのもまた間違いない。石川朔也は過去に起こした暴力事件をきっかけに、”正しい”ルートから外れ、そして戻れていない。その結果、リアル・アバターを演じざるを得ないのだ。本作では自由死と表現される尊厳死、安楽死を拡大解釈したような制度もまた、貧困とは無関係とはいえないだろう。

 そう考えると、本作は一見ヴァーチャル・フィギュアというファンタジー要素の強い柱を中心に据えながらも、極めて現代的な寓話ともいえる。これを表現するためには、多層構造とは切っても切り離せないのかもしれない。即ち、詰め込みすぎと思っていたテーマはいずれも必要不可欠なのではないか。

 物語の後半では”本心”という核心に迫っていくが、もはや人の心とは何なのであろう。身近な人であっても決して分からないし、本人であってもそうなのかもしれない。

 ちなみに、キャストと演技は文句なしに良かった。みながみな均等に不安定で地に足のついていない浮遊感を纏っているから、驚くほど調和のとれた世界が構築されていた。オリジナル設定に溢れた本作だけに、この調和が崩れると、観客は一瞬で取り残されてしまうと思う。

 余談だが、身体が動かなくなったお年寄りがお金を払って代わりに遊んでもらうという展開は、藤子A不二雄の「笑ゥせぇるすまん」の「アルバイト㊙情報」という話を思い起こさせた、という余談。藤子A不二雄先生の発想力はやはりすごいなぁと。

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