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【映画感想】『SHE SAID~その名を暴け~』
【※ネタバレ注意※】
フィクションとノンフィクションの狭間を漂いながらも、どっちつかずになることのない、そんな映画だった。「これは現実だ」と叫びながらも、映画としての作品性を失わず、観客をスクリーンに惹きつけさせる。
2時間があっという間に感じるほどの密度で、言葉通り、息継く間もなかった。恐らく、この一大事件を漏れなく、限界まで高めた解像度で伝えたいという、製作陣の想いだろう。
本作は、ハリウッドで長年隠蔽され続けていた性的暴行事件を、ミーガンとジョディの二人の女性記者が中心となって暴いた実話を基にしている。そして、映画の登場人物の名前はいずれも実在する人物のままというのも、制作の覚悟を感じる。更に、被害者の一人であるアシュレイ・ジャッドは本人役としての出演である。物語のクライマックスでは、アシュレイがジョディに電話をかけ、被害の公表を承諾する。ジョディの努力が報われ、世界を一変させるきっかけとなる劇的なシーンであるが、そのようなバックグラウンドを知ることで、本作はフィクションの域を超えていく。
ミーガンとジョディは、間違いなく物語のヒーローであり、性的搾取をされ続けた女性たちの救い人である。だが一方で、それぞれが弱さを持ち、生活を背負った一人の人間であることも、丁寧に描かれている。産後鬱にかかってしまい、夫に弱音を吐くミーガン。脅迫めいた嫌がらせの被害に遭い、精神的に追い詰められてしまうジョディ。
2人の生身の人間が挫けそうになりながらも、巨悪に立ち向かう姿に観客は心を打たれるのだろう。
また彼女らの上司である、レベッカ・コーベット編集局次長、ディーン・バケット編集長がひたすら格好良い。理想の上司はかくあるべきという姿を教えてもらった気がする。私事ながら部下が精いっぱい働けるよう環境を整え、時には自ら最前線に立ち身体を張り、大事なところはしっかり決める、こういった上司になりたいと思った次第である。
本作では複数の被害者(サバイバー)が登場する。適切な表現かは分からないが、特に格好いいと思ったのが、ゼルダ・パーキンス氏だ。傷ついた
友人に寄り添い、権力者にも凛として立ち向かう。秘密保持契約書に強引に締結させられ、二十年に渡って黙秘を続けながらも、ジョディに契約書を託し、ワインシュタインの告発に大きく貢献した。
彼女の中で、涙に暮れる夜を幾つ越えたのだろう。それでも、この瞬間を待ち続け、心に火を灯し続けていたのだろう。これを美徳として賛辞するわけでは決してないが、気高きこの精神には、感服せざるを得ない。