![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127948448/rectangle_large_type_2_d46b89254ca70a30cbfe939f51d9e945.png?width=1200)
【映画感想】ほかげ ~戦争は、終わらない~
「戦争が、終わったんだ」
なんて憎いキャッチコピー。戦争は簡単には終わらないのだと叫んでいる。
戦闘機が飛び交い、砲撃の雨が降り、あげく核爆弾が弾ければ、国一つが一瞬で亡びる――――戦争から想起するこれらのイメージは間違ってはいない。けれど、もし仮にそれらを乗り越え、終戦を迎えたとしても、それで全てが解決するわけでは決してないのだということを本作は教えてくれた。
本作で描かれている全ては、形式的には終戦後の世界でありながら、紛れもない”戦争”だと確信できる。復員兵は、出兵時のフラッシュバックに苦しめられ、やまぬ悪夢に苛まれる。幼な子は、戦争の意味すら分からぬままに 瓦礫の街を彷徨し、食べる事すらままならない。寄る辺ない女性は、働き口が見つからず、病の危険に晒されながら身体を売るしかない。これを戦争と呼ばずに何と呼べばいいのか。彼らには何の罪もないのに。戦争を庶民の目線で生々しく描く作品として、これ以上ない内容だった。
役者陣の演技もみな素晴らしいと思った。戦争という理不尽さに、人としての尊厳や将来への希望を奪われた人間の、無気力感のようなものが自然と滲み出ていた。ぼくは視聴していないが、趣里は朝ドラヒロインとして活躍中だとか。本作への出演は、時系列としては朝ドラが決まる前かもしれないが、売れっ子になった後でも、こういったウェルメイドな作品に出演してほしい。特に、声の出し方に感情が込められていて胸を打った。森山未來は立ち振る舞いが見事。得体の知れない根無し草のような雰囲気を醸し出しながら、ふいに見せる世を諦観したような表情が印象的だった。子役の塚尾桜雅は、その眼差しに心を見透かされた気にさせられた。穢れなき瞳が見つめるには冷たすぎる世界を、なんとか受け止めようとする気持ちが伝わってきた。また、物語終盤で何度も店主に吹き飛ばされながら皿洗いの仕事にしがみつく演技は素晴らしかった。自分がそういう仕打ちに遭うことは仕方ないことだと甘受しながらも、女との約束を果たすために、決して諦めるわけにはいかないというひたむきさが伝わってきた。
今日でも、世界では驚くほどたやすく戦火が切って落とされている。日本とて例外ではなく、一歩間違えれば戦禍に巻き込まれる危険を孕んでいると感じる。恐ろしいのは、自らそちらへ突き進もうとする人たちがいることを否定できないことだ。このような世の中で、本作のような戦争の悲惨を庶民の目線で伝える映画というのは、非常に存在価値があることだと思う。
蛇足。終戦後を描いた映画としては、某怪獣映画が記憶に新しい。VFXの技術は素晴らしいと思ったし、エンタメ映画としては面白い…と思うけれど、本作のように戦争が生み出す恐ろしさを真摯に伝える作品も大切だと思う。