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【映画感想】トリとロキタ

※ネタバレ注意※

 良い意味で、ドキュメンタリー映画のような現実感を放つ映画だった。
しかし、それは同時に、とても哀しく、この世界の不条理が見過ごされたままだとも言える。そして残念ながら、この映画で描かれていることは、今まさにぼくたちが見ない振りをしている現実に他ならないのだろう。

 映画は全編通してほとんどが逼迫感に溢れていて、胸が苦しく、目を背けたくなるシーンも多い。トリとロキタ、寄る辺ない二人の幼き姉弟の周囲には、爪を研ぎ、喉笛を狙っている敵ばかり。即ち、日々の生活、日常そのものがスリルに満ちている。
 日本という国で当たり前の平穏を享受しておきながら、それを幸せと名付けられないぼくたちに、本作は刺激が強すぎるともいえる。一歩間違えれば、ファンタジーだと切り捨てられかねない危険性を孕んでおきながら、それでもこの物語は多くの人々の心に届き、そして考えるきっかけを与えてくれると思う。そう、ここまで煽っておきながら、本作の演出は決して過剰なメッセージ性を帯びておらず、観客を煽っていない。感傷的なBGMも、余分な演出の溜めも、憐憫を誘う涙も、どこにもない。創作としては、ある意味渇いているともいえる。だが、それが現実感を増し、そしてより作品としての訴求力を高めているのだから、見事としかいうほかない。

 トリとロキタは、ただ当たり前の毎日を、か細いながらも確かに燃ゆる命の炎を燃やしながら、紡いでいる。そんな二人の望遠の先の未来は、希望に輝いていたのだろうか。幼いながらも利発で活動的、それ故の危うさをもつトリ、少々臆病で寂しがり屋ながらも、優しく思いやりの心をもつロキタ。そんな二人だからこそ、荒野のような世界を、お互いを支え合い、助け合って生きてこれたのだろう。一人残されたトリのこれからを思うと、なんともやりきれない。

 本作はあくまでフィクションであり、創作物であるということを前提にした上で書いておきたい。日本では入管難民法改正案が採決され、元々厳しいとされていた難民受入れへの門戸は、さらに狭くなると思う。よく「日本人の生活が優先だ!」などと声高に叫ぶ人を見かけるが、難民と呼ばれる人々は、まさに文字通り生きるか死ぬかの瀬戸際にある。
 せめて生命を尊ぶ心を忘れないようにしたい。

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