【映画感想】ホールドオーバーズ~置いてけぼりのホリデイ~
※ネタバレ注意
傷ついた孤独者たちが寄り添い合う群像劇ではあるが、決して湿っぽくならず、各々が互いに寄りかかりあうことはない。その絶妙な距離感がなんとも心地よい。
映画全体の作りが丁寧で上質。1970年のボストンが舞台となっているが、映像の色合いや音楽のセンス、舞台の細部にわたるまで再現度、没入度が非常に高い。特に物語序盤の年末の雰囲気、日本でいう師走の如く慌ただしさを漂わせながらも、浮足立つような期待感が隠しきれない、あの独特の雰囲気の演出が見事だ。観客は自分も登場人物の一人のように、あの世界に入り込んでしまう。
登場人物の背景は、結構シビアでそれぞれが大きな傷を抱えている。ハナム先生は、生徒からの嫌われ者で、その正義感の高さから校長にも煙たがられている。更に斜視であり、アンモニア尿症による体臭にも頭を悩ませている。そして過去にもまた隠された悲劇があり……という、なかなかの救われなさだ。給仕のメアリーは、若き一人息子を戦争で亡くしている。青年ドミニクは友人とうまくやれず、再婚した実の母親は、新しい父親との関係に夢中で、家庭にも居場所がない。
ともすれば、暗澹たるムードに飲み込まれかねない本作を絶妙なバランスで保っているのが本作の技術的に素晴らしいところだと思う。人生のやりきれなさ、ほろ苦さを描きながら、それを年末休暇という特別なシーズンで中和しているのだと思う。(ホリデイに取り残された彼らには皮肉な話ではあるが、やはりホリデイはホリデイなのだ)。
当時の社会背景が現在とさほど変わらないことにも驚かされる。戦争、家庭問題、格差社会……人間の社会はもうこれ以上は更新されることはないのだろうか。飽和しきったように思えてしまうのだ。そういえばハナム先生がうつ病であることは明かされているが、アル中もまた患っているように思える。アカデミックという鎧を着こみ、強がってはいるが、彼もまたかよわい一人の人間なのだろう。
彼ら三人が傷つけ合い、寄り添いあいながら休暇を過ごす中で、好きなシーンがある。レストランで散々クレームを吐いた後に、夜の駐車場でチェリージュビリーを作るシーンだ。ハナムは店員に対して「低能ファシスト」などというとんでもない暴言を吐いて店を出る。そして三人でチェリージュビリーを囲むのだ。なんともシニカルながらコミカル、感動的ながら面白い。本作を象徴するシーンだと思う。
ラスト、ハナムとドミニクの別れも割とドライだ。ハナムは自分の身を挺してドミニクの退学を取り消す。ドミニクはハナムに礼を言うが、水っぽくなったりはしない。ハナムは今までの自分の唯一の拠り所であった母校に唾を吐きかけ、去っていくのだ。ハナムにとって、これが本当の卒業ということではないのだろうか。彼のこれからの人生の幸せを願わずにはいられない。
基本的に素晴らしく文句のつけようのない映画であったが、敢えて言うのであれば、年末にみたかったなぁ、と笑。