【映画感想】ヨナグニ~旅立ちの島~
久しぶりに映画館でドキュメンタリー映画を観た。
ヨナグニは、ドキュメンタリー映画というよりも、素直で純粋で、そして静かだけどもとても力強い、記録映画だと思った。
あまり前情報を入れずに観たが、沖縄が舞台の映画ということで、透き通るような海と真っ青な大空、照り付ける日差しに、真っ黒に日焼けして陽気な住民たち…という勝手な思い込みがあった。
だが、映し出されるのは、沖縄の豊かで美しい自然や、住民の弾けるような笑顔などを殊更に強調していない、正直なヨナグニの風景だった。
もちろん、暗くて地味な映画というわけではない。沖縄の、それから人々の芯から、美しさや気高さが十二分に滲み出ていた。ナレーションが一切ないのも作品への没入感を高めてくれる。
本作でメインにフィーチャーされているのは、14歳の中学生たち。与那国島には高校がないため、進学するためには一度島を離れることになる。それぞれ不安や希望、それから与那国への思いも抱えて、空港から旅立つ。
「与那国に高校があったらどうしますか?」という問いに対する、各々の回答が興味深い。若干14歳といっても、本当に色々なことを悩み、考えているんだなと思わされた。
本州や沖縄本島に住まう同級生たちより、一足早く大人への階段を上らされなくてはいけない。それはともすれば、不幸なことかもしれないが、彼ら/彼女らがヨナグニで過ごした時間は消えることはないし、繋がりも残り続けるのだろうなと思った。
沖縄映画ということで、少しだが戦争にも触れられている。ただ、戦争経験者も、もはや少なくなってきていると思う。SNSでは、国防の重大さ等を叫ぶ声が散見されるが、どれだけそこに住み、生きている人のことを知っているのだろう。沖縄の人の声を聴き、現実を知ることがまずは第一歩ではないのだろうか。直接的な関連性はないが、沖縄の現実を綴った上間陽子さんのノンフィクション作品「海をあげる」を思い出した。
アート性の側面では、中井舞風さんの演出が素晴らしい。その中世的で美麗な風貌もさることながら、良い意味でどこか陰があるオーラが際立っていた。馬と戯れるシーン、自転車で駆けていくシーン、馬に跨って飛行機を見送るシーン、そして舞踊のためのお化粧をしてもらっているシーンと、どれも自然であるのに、人を惹きつける魅力があった。役者としてデビューしたら売れるのではないだろうかと思った。