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【有価証券報告書から読み解く】人的資本経営の現状〜男女間賃金格差編

2024年3月期の有価証券報告書から人的資本経営の実態を読み解く!
これらの記事の最終編になります

最後は、男女間の賃金格差を取り上げて分析をしていきます。



なぜ、男女間の賃金格差の公表が求められているのか?


労働者が性別により差別されることなく、
その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備することは、
社会の公平性と経済の持続的成長のために極めて重要です。

日本では、男女雇用機会均等法の施行により、男女均等取扱いの法的枠組みが整備されてきました。
この法整備の進展に伴い、企業においても女性の職域が拡大し、管理職に占める女性の割合も上昇傾向にあるなど、女性の活躍が徐々に進んでいます。

しかしながら、このような進展にもかかわらず、労働者全体を平均して見た時の男女間賃金格差は依然として存在しており、先進諸外国と比較すると、その格差は顕著に大きい状況が続いています。

この課題に対応するため、2022年7月の女性活躍推進法に関する制度改正により、常時雇用する労働者が301人以上の事業主を対象として、「男女の賃金の差異」が情報公表の必須項目となりました。

同じく、有価証券報告書でも2023年3月期の決算期以降、開示が求められるようになりました。

つまり、企業の状況を外部の目で見てもらうこと、企業に改善を促すということですね。

男女間の賃金格差の計算方法について


男女間の賃金格差の計算方法は以下の通りです:

  1. 労働者を4つのグループに分類します:

    • 男性・正規雇用

    • 男性・非正規雇用

    • 女性・正規雇用

    • 女性・非正規雇用

  2. 各グループの総賃金と人員数を算出します

  3. 各グループの平均年間賃金を計算します
    平均年間賃金 = 総賃金 ÷ 総人員数

  4. 以下の3つの区分で男女の賃金差異を計算します

    • 全労働者

    • 正規雇用労働者

    • 非正規雇用労働者

  5. 各区分で、男性の平均年間賃金を100%として、女性の平均年間賃金の割合をパーセントで示します

例:
正規雇用労働者の場合:
(正規女性の平均年間賃金 ÷ 正規男性の平均年間賃金) × 100%

この計算を3つの区分それぞれで行い、結果を公表する必要があります。
賃金には、基本給、諸手当、賞与等を含む、労働者に支払われた全ての現金給与を含めます。

男女間の賃金格差の比率が高いほど、賃金格差は小さく、
逆に、賃金格差の比率が低いほど、賃金格差は大きいということになります


男女間賃金格差の開示率


有価証券報告書の提出会社が開示しているかどうかで見ています。

提出会社の分は開示をしていなくても、連結子会社の分は開示をしているケースがありますが、このようなケースにおいては、開示なしとしてカウントしています。

4分の3は開示しているが、4分の1は開示していませんでした
これは提出会社の従業員数が影響していると思います

今までの記事でもご紹介しましたが、
上場企業といえども、すべての企業に多様性3指標の公表義務があるわけではないのです。
従業員数によって公表義務が変わってきます。

男女間の賃金格差については、従業員300人超であれば、有価証券報告書上での公表義務がありますが、100人超300人以下であれば、女性活躍推進法で公表している場合のみ、公表義務があることになります。

実際、従業員数の区分で見たところ、
やはり、従業員数300人超であればほとんど公表しています。

男女間賃金格差の中央値・平均値・標準偏差


さて、ここから男性育児休業取得率の数値を見ていきましょう。

全体を俯瞰したあと、
市場区分別・従業員別・業種別で細かく見ていきます。

男女間の賃金格差は、女性の賃金

全体


全労働者で見ると中央値、平均値ともに7割を切る水準です。
男女間賃金格差は、比率が小さいほど、格差が大きいことを示しています。
正規と非正規を比較した場合、正規に比べて非正規の賃金格差が大きいことがわかります。

縦軸に企業数、横軸に男女間賃金格差をとったヒストグラムで見ていきましょう。

全労働者

概ね正規分布です
20%台の企業もあるようですね
男性より女性の方が賃金が高いと100%を超えます

正規労働者

非正規労働者

正規・非正規で見た時に、非正規の方が、男女間賃金格差のバラツキが大きく、水準も低い傾向にあることがわかりますね


市場区分別


プライム・スタンダード・グロースの東証の市場区分だけで見ると、プライムの男女間賃金格差が大きいですね。
非正規労働者の格差の大きさが影響しているようです。

全労働者
正規労働者
非正規

従業員区分別


従業員数別に見てみると、少し違ったものが見えてきます。
プライムの格差が大きいので、従業員数の多い企業ほど、賃金格差が大きいと思いきや、実は、企業規模が大きい従業員数3,000人超までの大企業となると、格差はあまりないんですよね。
結局、300人超3,000人以下の中途半端な企業群において、まだまだ、男女間の賃金格差が残っているようです。

全労働者


正規労働者


非正規労働者


業種別


業種について、東証では33区分と17区分の二つがありますが、ここでは、複雑にならないよう17区分で見ています。

中央値トップ群は、医薬品、自動車・輸送、情報通信・サービス等でした。
非正規労働者が多そうな「自動車・輸送機」の男女間賃金格差が低いのは意外でしたね。
一方、女性管理職比率や男性育児休業取得率でトップだった銀行ですが、男女間賃金格差になると最下位となりました。賃金面では、まだまだ、男尊女卑なのでしょうか。

見にくいですが、箱ひげ図にすると以下の通り。

PBRと男女間賃金格差との相関


男女間の賃金格差を下げる(比率をあげる)ことが企業価値の向上につながるのか?

企業価値をシンボリックに表す指標としてPBRに着目し、PBRと男女間の賃金格差との相関をとってみました。

・スケールを合わせるために対数(log)をとっています
・PBRについては、上下1%タイル値を外れ値とみなして除外しています。

どうでしょう?
相関係数は0.13です。

男女間賃金格差と企業価値との間には弱いながらも相関がありそうです。


さいごに


いかがでしたでしょうか。

今後の企業経営において、多様性3指標は、単なる数値目標を超え、企業の真価を内外に示す強力な手段となる可能性を秘めています。

しかしながら、将来的な競争優位性を確立するためには、これらの指標を数字上で向上させるだけでは不十分です。
真に重要なのは、指標の質的向上と、女性人材の育成・登用に対する積極的な投資です。
このアプローチこそが、長期的な企業価値の創出につながるでしょう。

自社の価値創造プロセスを効果的に伝えるためには、社会全体の動向と自社の現状を客観的に分析し、それに基づいた指標改善の取り組みが不可欠です。
このような戦略的なアプローチを通じて、多様性の推進と企業価値の向上を同時に実現していくことが求められていますね。


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