【有価証券報告書から読み解く】人的資本経営の現状〜女性管理職比率編
2023年3月期決算より、上場企業等は、
人的資本経営に関する多様性指標として
❶女性管理職比率
❷男性育児休業取得率
❸男女間賃金格差(全労働者・正規労働者・非正規労働者別)
の3指標を有価証券報告書に記載することが求められるようになりました。
これらは多様性3指標と呼ばれることもありますが、
そのバックボーンにある考え方は、女性活躍の推進にあります。
政府は、2003年に女性管理職比率を30%にする目標を掲げるとともに、
安倍政権では女性管理職比率の向上を成長戦略の一つに掲げてきました。
しかしながら、企業の女性活躍推進にかかる取組状況は自主的な公表にとどまったため、全体的に女性活躍が進んでいるのかどうかがわからないばかりか、企業間や業種間の比較も容易ではありませんでした。
それが、2023年3月期以降は、多様性3指標の状況について、有価証券報告書への記載が求められるようになり、これに伴い、上場企業等に限りますが、全体的な状況が把握できるようになり、企業間・業種間の比較も可能になったのです。
このnoteでは、最新の2024年3月期決算の有価証券報告書にもとづき、何回かに分けて多様性3指標のデータを抽出し、さまざまな切り口で分析した結果をご紹介してきたいと思います。
人事セクション・経営企画セクションはじめ、企業で人的資本経営に携わっている方、必見です!
ぜひ、貴社のデータと世の中の水準を比べてみてください。
最初は、女性管理職比率を取り上げて分析をしていきます。
多様性3指標の公表義務について
女性管理職比率の開示状況の分析に入る前に、多様性3指標の公表義務について確認してきたいと思います。
よくある誤解なんですが、
上場企業といえども、すべての企業に多様性3指標の公表義務があるわけではないという点をご説明していきます。
従業員数の数によって、
多様性3指標の公表義務は以下の3パターンに分かれます
従業員数との関係は以下の表の通りです。
データの前提について
データは、2024年3月期決算の上場企業(証券コードがある企業)がベースとなります。ただし、2024年6月末までに有価証券報告書の開示をした企業に限ります(法令期限)。
全体では2,295社ありました。
以下では、さまざまな分析を行っていますが、比率を出す際は、多様性3指標をはじめとする対象指標を開示してるかどうかで、分母の母数を変えている点、お含みおきください。(開示していない場合は、母数に入れていません。つまり、全ての母数が2,295ではないということです)
女性管理職比率の開示率
有価証券報告書の提出会社が開示しているかどうかで見ています。
4分の3は開示しているが、4分の1は開示していませんでした
これは提出会社の従業員数が影響していると思います
従業員数の区分で見たところ、
開示率は従業員数に比例していることがわかります。
開示義務のない100人以下のケースでは開示率が33%でした。
市場区分ではプライムの開示率が最も高いですが、
これは従業員数が多いからでしょうね。
女性管理職比率の中央値・平均値・標準偏差
さて、ここから女性管理職比率の数値を見ていきましょう。
全体を俯瞰したあと、
市場区分別・従業員別・業種別で細かく見ていきます。
全体
以下は、横軸に女性管理職比率、縦軸に企業数をとったヒストグラムです。
見ていただいてわかる通り、女性管理職比率は0%近傍に偏っていて、まだまだ日本企業全体として低いことがわかります。
このような右に裾野の広い分布は、
日本人の年収や貯蓄額と同じであり、平均値より、中央値を見ることが大事です。
中央値・平均値・標準偏差の状況は以下の通りです。
中央値は5.9%とかなり低いですね。
海外の女性管理職比率を見ると、アメリカ43%、フランス38%など欧米では30%超が普通です。
アジアでもフィリピンは52%、シンガポール34%となっており、日本は大きく後れをとっています。
市場区分別
プライム・スタンダード・グロースの東証の市場区分だけで見ると、プライムが最も低いですね。
開示率は従業員数が多いほど高かったですが、女性管理職比率の数値自体は、従業員数が多いほど低そうです。
従業員区分別
従業員数別に見てみると、その傾向がよくわかります。
日本を牽引するような大企業の多くが男性中心の組織だったことがわかりますね。
ただ、中央値についてみると、微妙ですが、3,000人超が、300人超3,000人以下を少し上回っていますね。
業種別
業種について、東証では33区分と17区分の二つがありますが、ここでは、複雑にならないよう17区分で見ています。
中央値トップは銀行でしたね。
上位には、小売・サービス系が目立ちますね。
医薬品がなぜこんなに高いのかは謎ですが。
一方、下位には、重厚長大な産業&建設業がならびます。
これは納得ですね。
見にくいですが、箱ひげ図にすると以下の通り。
PBRと女性管理職比率との相関
なせ、多様性3指標の比率を高める必要があるのか?
と問われれば、それは多様化を進めることが企業価値向上につながるからに他なりません。
では、実際に多様性と企業価値との間には関係性があるのか?
ここでは、企業価値をシンボリックに表す指標としてPBRに着目し、PBRと多様性3指標との関係性を見ていきたいと思います。
この記事では、
PBRと女性管理職比率の相関をとってみました。
どうでしょう?
相関係数は0.29です。
弱いですが、女性管理職比率とPBRとの間に正の相関がありましたね!
現実世界で、0.5を超える相関ってなかなか無いですし、PBRに影響を与える項目はたくさんある中、0.29という相関係数は高いと思います。
今後、データが揃ってこれば、経年での変化率なども捉えることができ、様々な角度からの実証が進みそうです。
さいごに
いかがでしたでしょうか。
これからの時代、
多様性3指標は単なる成果指標でなく、自社の企業価値を社内外に発信するための有効なツールになりうると思います。
当然、将来の競争力を高めていくためには、単に多様性3指標の比率を上げるだけではなく、その質をあげ、女性の活用に向けた投資を加速できるかどうかは大事になってきますね。
自社の価値創造ストーリーを効果的に発信できるよう、世の中と自社の状況を比較しながら、指標改善に向けた取り組みを行っていきましょう。
次は、男性育児休業取得率です。