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SS「白紙の裏」

ぽつり…ぽつり…。
教室の一番後ろ。雨音だけが響いている。
彼女は一人、窓の外を眺めていた。

「はぁ…また雨」

雨音だけが響く中、確かに彼女が一人、ぽつりと呟いた。
誰に言うわけでもなく、窓の外を眺めながら呟く彼女は丸眼鏡に三つ編みおさげの、少し…いや、かなり芋っぽい少女だった。
頬杖をつく彼女の机の上には白紙の紙が一枚。他にシャープペンシルや消しゴムを出しているわけでもなく、ただ、机上に一枚だけ。白紙の紙があった。

まっさらで、皺一つないただのA4の紙。

窓の外をぼーっと眺めながら彼女がまた、口を開いた。

「ねぇ、ここに何を書けっていうのよ、将来の夢?これからの進路?長所?短所?家族への感謝?先生への抗議文?この紙に何の意味があるのよ。」

「何馬鹿言ってるのよ。それはあなたが決めることでしょう?」

「あなたはそればっかりね。馬鹿言ってるわけじゃないわよ。ただ、純粋にそう思っただけ」

「その紙が渡されて今日で一週間。今更純粋にそう思われても紙には何も書かれないわよ」

「はぁ……」

窓の外を眺めていた彼女が紙に視線を移す。
何も言わずにただ、次は白紙と睨めっこしたまま、教室内には雨音がまだ響いている。教室から一歩出れば、運動部の掛け声、吹奏楽部の楽器の音色、文化部の笑い声。それでも彼女は雨音が響く教室内に一人。
誰とも群れあうつもりはないかというかのように一人でただ、窓側の一番後ろの席に座っている。

「みんな、そんなに将来に対しての希望があるわけ?よくわかんない。まだ高校生よ。ここからいくつもの選択肢があるっていうのに。大人になったわけでもないのに、すべて自分で決めろだなんて無理な話よね。そう思わない?」

「それでも、みんな大人になるのが待ち遠しくて先に先に走って行ってしまうものだから。…だから、この白紙にはあなたが決めたことを書くのよ」

「なら、私は子供のままでいいわ。このままでいい」

「ほんと、あなたって人は馬鹿ね」

「うるさいなぁ…馬鹿っていうほうが馬鹿なのよ」

「でも、あなたのそういうところ、嫌いじゃないわ」

「……ばか」

いつの間にか、彼女の手に握られたシャープペンシル。
がりがりと白紙に書くと、隣の席を見て立ちあがり、隣の席にその紙を置いた。

「…また明日」

そう、誰にでもなくひとりでにそういい教室から出ていく彼女はどこか背筋が伸びているような気がした。

彼女の隣の席には机に一つ、花が刺さった花瓶と彼女が残していった紙が一枚。白紙かと思われる紙の裏にはがりがりと書いた割に少し弱々しい字で

『早く帰ってきて。……うそ。またね』

そう一言だけ書かれていた。
雨音がぴたりと止まり、ようやく雨が上がった空にはきれいな虹がかかっていた。

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なんとなく、ふと学生時代を思い出したので学校ものを書いてみました。
久々に書いたので下手くそで同じようなことを書いている…。
こんなのも、たまにのせれたらなと思います。

そういえば、彼女はだれと話していたんでしょうね?


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