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デザイナーが今、「色やカタチ」について考えていること

こんにちは。トークアンドデザイン代表の今西(@no_imanishi)です。

ずっと昔からあった話ではあるのですが、デザイン思考の流行以降、「デザインというのは色やカタチのことだけではないのです…」という枕詞がすっかり定着したように感じます。

その言葉自体に異存はありませんが、色やカタチも扱う人間としては、まぁまぁそんなに壁を作らずに…という気持ちになることもあります。

ここでは、主に立体造形というかちょっと古風な工業デザインを念頭に、「色やカタチ」を扱う際に何を考えているのか、文字にしてみたいと思います。

(尚、UIの立ち位置からはまた別途の機会に書いてみたい…)

色やカタチは、複眼的に決まっていく

色やカタチを決めていくというのは、いくつかの「考えるべき視点」の間で最善の姿を探し続ける作業なのだと思います。日々の業務の中で感じている「考えるべき視点」について、以下につらつらと並べていこうと思います。どれが大事でどれが大事でないという話ではありませんので、順序に意図はありません。

1.人にとってのその商品の意味(「らしさ」)

その商品を見て触れた時に、それは何だと感じられるのか…という話です。例えば、冷蔵庫を見て事務書類ロッカーに見えたらそれはおかしいよねという感じですし、炊飯器を見てヘルメットに見えたらそれもおかしいよねという感じです。
他方、手垢のついた前例踏襲で魅力は生まれませんから、その商品の本質を問うたり(原型性の追求)、逆張りしてみたり、工夫をすることになります。

掃除用具に楽しさや愛らしさを主軸に据えた色とカタチ

さらっと書きましたが、イノベーティブな商品であればあるほど道無き道になるので、一番悩むところです。
また、下手をすれば人間の薄暗い部分が出てくるところだったりもして、幾ばくか倫理や自制が求められる側面もあります。(どうして高級ミニバンやSUVのフロントグリルはあんなにオラついた形状のが人気を博しているのか…を考えると、購入者が本当に満たそうとしている感情に気づきます。)

2.幾何構成の秩序

生活や労働の空間の中でモノのよりよい佇まいを求めたときに、商品の造形が幾何的に見て容易に理解できるその成り立ちをしていることは強力な支えになります。
なんでも四角にすればいい訳ではありませんが(一時期そういう流行りの時期がありましたね)、形状をどう秩序立てようとしているのか意図が見えると、人はその物体を受け入れやすくなるように思われます。

3.部分の役割の最適化

商品はいくつかの「部分」から成り立ちます。部分の例を挙げると、持ち手ハンドル、表示部、支持脚、ゴミ格納部、乗り降り部、確認窓、操作部、差し込み部、カッター部…等々です。人が使うモノは、これらの「部分」を人との関係をよりよくするためにコーディネートしてやる必要があります。

例えば、キオスク端末のようなものを考える際、私なら、画面・入力部・ICカードのタッチ部といった人とのやり取りをする部分は一つのまとまりに見えるように配置します。人とインタラクションする部分と、それ以外の部分(諸々の臓物を納める箱とか足とか)が、色とカタチで明確に表現されれば、使われることを歓迎するプロダクトと見えるでしょう。

また別の例として、工具のようなハンドツール型プロダクトの場合であれば、手で触る各部分を視覚的に明確化するとともに、滑り止めといった実用上の処理も施すでしょうし、その道具の機能部(切るとか、叩くとか、挟むとか、吸うとか)がその機能を表現する形状を模索するでしょう。

色とカタチを総動員して役割の可視化を試みているとも言え、非常に工夫のしがいのある視点です。

4.文化や慣習への整合

流行とか慣習とか、やはり存在するので、それとどう付き合うのかというのは一つの意思決定になります。商品色(例えばエアコンは大体白い)なんかも慣習の一つです。「革新こそがデザイナーだ」と言うのは易いですが、カスタマーとユーザーに受け入れられてこその商品なので、独り相撲にならないようにしないといけません。
巻かれるのか、反逆するのか、乗りこなすのか、その商品をどういう立ち位置のモノとして位置づけたいのかという商品の企画意図と密接に関わります。

5.ブランドのらしさの表現

多くの商品が何かしらのブランドをラベリングされて販売される訳なので、やはりそのブランドの期待に応える色やカタチでありたいと考えます。車のフロントグリル形状を揃えるとか、スポーツブランドが色を揃えるというような、色やカタチの一貫性という話になりやすいですが、ここを掘り下げると、そのブランドが社会に約束していること(ブランドプロミス)は一体なんなのかという、結構シビアな議論になります。

6.製造上の制約

言ってしまえば、工場で作れるのか…というシンプルな話です。工業製品である以上、工作機械で扱えないものは作れないというところはあります。樹脂成形品は金型が抜けなければならないし、板金加工ならプレスブレーキに収まらないといけません。
一方で、所謂デザインコンシャスな会社はここにグッと努力を突っ込んで、他社にできないことをできるようにしているという側面もあります。

7.機能上の要件の達成

強度が要る、通気量が要る、防錆配慮が要る…等々、商品が商品たる為に、とにかく要ると言ったら要るのですという話です。このせいで思った形状に出来ないということも多いので、なんだかんだとごねるデザイナーも多いですが、ごねただけでは結局商品価値を下げることが多かったりもします。機能上の要件を達成することとその他の視点が共に解決するようなアイデアが求められるのが大変なところです。

「アイデアというのは、複数の問題を一気に解決するものである」 

宮本茂(任天堂株式会社代表取締役フェロー)
https://www.1101.com/iwata/2007-08-31.html

またその「要る」に根拠のないただの「お決まり」は含まれてないですよね?という視点も忘れずにいたいところです。

8.ヒューマンファクター

持ちやすい、見やすい、分かりやすいの世界です。
ドライに言えば機能上の要件の一部なのですが、工業デザインの成立の過程で、プロダクトを人間を基準とした寸法で設計をする…というのは一大変革であったはずなので、別項目にしてみました。指挟み防止など安全への配慮や色弱者への配慮、考えることなく自然に正しく使えるように体が動く操作誘導なんてのもここに入ろうかと思います。

少し思い出話…「売れるデザインしてや!」

新卒でメーカーに入ると、だいたい工場での研修があると思います。私も配属先の家電の事業部の製造ラインでおよそ1か月の研修期間を過ごしました。組み立てラインで働いているのは中年の女性が多かったですが、自分デザイン部に入りますという話をすると、真っ先に言われたのが「あんた、売れるデザインしてや!頼むで!」でした。
もちろん関西風激励が九割な訳ですが…、その事業部、新入社員から見てもいかにも台所事情が苦しい気配があり、ちょっと本気入ってる感じもする訳です。とは言え「売れるデザイン」!? 「売れる」は結果で、様々な活動の複合として達成されるものです。その中で何ができるのか?正しい努力の方向とは?…と考えさせられる大きなきっかけでした。
(ちなみにその工場、すったもんだの末、数年後閉鎖になり、更地になって、今はイオンモールになっています。。。)

終わりに

こうした「何を考えて色とカタチを扱っているのか」は、デザイナー毎にポリシーがありましょうし、取り扱うプロダクトのスケール感にもよっても異なる気がします。

私は生活家電が出自なので、やはり家電くらいのスケール感が考えの土台になっていると思います。大きなモノ、例えば車や、さらに建築となるとどうなるのか、機会あれば詳しく胸の内をお聞きしてみたいなぁと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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