『執念第一』(毎週ショートショートnote)
年末のある日、私は大学の研究室に教授と二人きりだった。
「教授、今年も思うような成果が得られないまま
年を越すことになりそうですね」
「まぁ、答えがあるのかさえ分からない研究だからね」
そういうと教授は壁に貼った幾枚もの写真を眺めた。
それはこの研究に携わってきた歴代の生徒たちの
集合写真だった。
「教授は、何年この研究を続けているのですか?」
「今年でちょうど30年になるよ。」
「このまま答えが見つからないんじゃないかと
思うことはありませんか?」
「もちろん、その可能性は十分にある。
しかしいつかはきっと答えが出ると信じているよ」
「執念ですね」
「ずっと執念第一でやってきたからね」
「教授、やはり私は」
「君は第一志望の会社から内定をもらっているのだろう。
なに、まだまだ私は大丈夫だ」
私は教授の体が病魔に侵されていることを知っていた。
あれから数年の歳月が流れ、教授の研究は実を結んだ。
壁の写真にはいつからか、教授の代わりに私の姿があった。
(410文字)
<あとがき>
研究者の中には、成果が出ないまま死んでしまったり
在学中に携わり答えが出ないまま卒業してしまう
人たちも大勢いると思います。
成果が出せないことには悔いがあるでしょうが
研究に費やした人生そのものには満足しているのか
ずっと興味があります。