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君と孤独は分け合えるのか。/Outer Wilds Echoes of the Eye

※この記事はゲームストーリーのネタバレを含みます※

 「Outer Wilds Echoes of the Eye」というゲームをクリアした。新人宇宙飛行士として惑星を探査するゲームだ。主人公が目覚めてから22分を過ぎるとこの宇宙は消滅してしまう。その22分間を何度も繰り返し、このループから抜け出すことが目標だ。それを知るためには、この宇宙に隠された秘密と、新たに発見された惑星?のことを知らなければならない。


 DLCを抜きにした「outer wilds」の感想はこの記事だ。

 普段読んでくれている方々の他に「outer wilds」に取り憑かれているんだろうなという方からも読んでいただけて、本当に嬉しかった。しかし自分で読み直すと格好つけ過ぎているなと感じた為、今回の記事はちゃんと格好悪いところも見せようと思う。
 綺麗な感想は上記記事を読んでいただき、現実の私がDLCである「Echoes of the Eye」をプレイしてどうだったかを書かせていただきたい。
 ただ私はポエミーなことを書くのがとても得意なので、多少は格好つけてしまうことは許してください。


⊳ DLC購入 ⊲

 私はビビりだ。それに加えてアクションゲームが苦手だ。ゲームの下手さを勇敢さで埋めることはできないし、逆に、恐怖で竦む足を上手くコントロールすることもできない。だからこそOuter WildsのDLCを買っていいものか悩んでいた。
 Outer Wildsを知ったきっかけは友人からの紹介だったから、紹介の流れでDLCがあるのは始めから知っていた。だからDLCの内容にホラーが含まれることも知っていたし、追いかけられることと驚かされることが大の苦手な私にはとびきり向いていないということも知っていた。
 Outer Wildsをプレイするにあたり、友人は私のために「闇のイバラでは何かに追いかけられる」という情報を教えてくれた。それを聞いた私は闇のイバラの地面に立つだけで1ループを費やし、探査艇の外に出て惑星の空気を吸うだけで1ループを費やした。巨大なチョウチンアンコウを始めて見たときは怖すぎてパソコンを置いてある机の横に立ち、ほぼ線に見えるモニターを薄目で覗き込みながらコントローラーを操作していた。アンコウの呼吸音を聞くだけでヒッヒッと息を荒げ、心臓は跳ね上がった。
 このように大袈裟なくらい怖がる私がOuter Wildsをクリアできたのはアンコウ消失MODを制作してくれた先人たちのおかげだと思う。本当に感謝をしてもしきれない。ありがとうございます。本当にありがとうございます。

 だからこそDLCはやるべきでないと思っていた。友人たちからは「向いていない」と太鼓判を押されたし、自分でもそう思った。
 初めて「船」エンディングを見た時は胸がいっぱいになって切なさと達成感が込みあがってきて、最高のゲームをクリアしてしまったという気持ちで満ちていた。クリアしてから一週間くらいはOuter Wildsのことしか考えられなくなり、口を開けばOuter Wildsのことを言っていた。だからこそ、Outer Wildsを嫌いになりたくなかった。
 ウオッチリストにはずっとEchoes of the Eyeは入っていた。ゲームPVを何度も見て、映像の暗さと未知への恐怖に何度も挫折した。続きが知りたい。あの惑星たちが滅びる運命だとしても、その滅びる22分前に何が起こったのかを知りたい。友人たちから呆れられるほどに相談を繰り返した後、ようやく決心がついた。DLCの内容を知らなくても私は死なないしOuter Wildsは最高のゲームだ。

 だが、我慢の限界だった。まだあの惑星群には未知がある。その内容がどうしても知りたい。私だって宇宙の眼の信号を受け取ってしまっている。恐怖を好奇心が追い越した。私はようやくDLCを購入した。チョウチンアンコウに恐れて半泣きでコントローラーを放棄したこともある私だが、Echoes of the Eyeをプレイすることに決めたのだ。
 

⊳ 探検を再開 ⊲

 DLCの始まりは不可解な衛星写真から始まる。太陽に影が映るのだ。レンズの汚れや機器の故障だと思われたその影を追って宇宙へ飛び立つと、太陽に影が差す光景を実際に見ることができる。本当にあったのだ。知り尽くしてしまったと思われたこの宇宙にはまだ未知があったのだ!
 「流れ者」と呼ばれるこの惑星?の中に入ると、悠々と流れる大きな河川と古びた居住区がある。主人公と私はその居住区を調べ、河川を塞き止めていたダムの決壊に巻き込まれ、この惑星?の未知をゆっくりと解いていく。

 まず思ったことは「最高~~~!!」だった。本当に最高だった。読めない文字、知らない種族、航行記録が更新される音。全てが最高だった。
 未知への好奇心はどんどん消化されて情報へと記録される。スライドリールに映される光景は初めて見るものばかりで、宇宙の眼の信号を捕らえたのがnomaiたちだけでないことに興奮した。信号がたった1度しかなかったことに対して「ただの気まぐれだったのかもしれない。」と言っていたnomaiもいたが、それが間違いだったことも分かった。気まぐれなんかじゃない。宇宙の眼はずっと信号を発信していた。宇宙の眼は孤独になりたかったわけではなく、孤独になってしまったのだ。

 しかし、その孤独は1人によって破られる。それがたった一瞬の出来事だろうとも、それを受け取った誰かがいるのは既に知っている。点在していた記録に一気に線が引かれた感覚だった。良かった。本当に良かった。

 このことを知るために最大のホラー要素である「追いかけられ」を経験したが、恐怖緩和を躊躇いなく入れた私に間違いはなかった。けれど、アンコウよりも大きくなく、恐怖緩和の補正のおかげか動きも遅かった流れ者たちのことは案外平気だった。嬉しい誤算だ。モニターの横から見ることも薄目になることもせずに逃げ切れることができた。コントローラーも投げ出さなかった。
 知られたくない記録、燃やした記録がまだ残っている。それだけで彼らの中での禁忌を犯せた。それに、記録庫に行くhearthianと私を彼らは本気で止めていたんだろうか?本当に止めたかったんだろうか。スライドリールを全て捨てなかったのは、心の何処かで夢で暮らす自分たちを終わらせてほしかったんじゃないんだろうか。流れ者の彼らが消したかった記録が棚に綺麗に並べられているのを見て、そう思った。

⊳ エンディング ⊲

 囚人の彼と会えたのはDLCを購入して一週間とちょっと過ぎた頃だった。実はプレイしてすぐの私は水中の建造物に入っていたあの筒?のようなものを見て「棺桶じゃないっすか」と言っていたらしい。冗談が本当になるとこんなにも冷や汗がでるんだと知った。
 彼が出てきたとき、怖くはなかった。敵ではないとすぐにわかったからだ。彼はhearthianと私に少しだけ話をするとその場所から出ていった。彼がずっと覗いていたであろう望遠鏡の奥には仮想現実として作られた彼の故郷が見えた。望遠鏡を覗こうとしたが彼の身長に合わせられたそれは、私たちでは足が届かなかった。そうだよなあと思った。本当に大切なものは見られたくないものだ。

 彼の後を追うと彼はもういなかった。足跡は川へと続き、途絶えていた。この瞬間をどれだけ待ち望んでいたんだろう。そして、hearthianと私は最後のループへと向かった。彼がいるのがわかる。宇宙飛行士とnomaiで囲んだあの焚火の場所に、彼がいるのがわかる。
 もう慣れたエンディングへの道を進んでいくと、やっぱり彼はそこにいた。全員で焚火を囲んで音楽が作られていく光景を見ながら、endingだと思った。finishではない。endだ。もうこの宇宙は終わるのだ。
 だが、それで良いのだと思える。それがこのゲームの素晴らしいところだ。hearthianと私は、何度このループの終わりを見ても後悔しないんだと思う。

⊳ 最後に ⊲

 宇宙の眼に降り立つ。奇妙な柄の地面や木、物質に囲まれたその惑星には大きな力と果てしない未知が詰まっている。結局、DLCをクリアしても宇宙の眼のことについては何も知ることができなかった。何故信号を出しているのか、何故量子という物体が作られたのか、何故わざわざ自分が孤立するような場所にいるのか。どの疑問への答えも推測をでない。よく分からないままだ。
 しかし、もうこの惑星のことは知っている。更新されない航行記録がその証拠だ。未知はある。だが何も知らない訳じゃない。

 nomaiの君も流れ者の君も、その記録を追ったhearthianの君も、この宇宙で眼を孤立させないように生きてきた。それに私は乗っかっただけだ。だから君を知りたかった。1人で闇に浮かぶ君を。来るかもわからない何かを待ち続けた君を。生きた軌跡を確かに残した君を。自らの終わりを知っていた君を。
 だって君たちが生きてきた証を見つけてしまったから。それが果てのない宇宙の奥から発せられた信号だろうが、あらゆるところに刻まれた文章だろうが、スライドリールの燃えカスだろうが、スタートボタンを押してしまったから君のことを見つけてしまった。見つけてしまったから探査艇で追いかけてきたんだ。見つけてしまったから、22分のループを終わらせることができたんだ。


 君と孤独は分け合えるのか。
 きっと、この宇宙が全て作り替わってしまったとしても、僕たちはもう孤独でいられなくなっている。

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