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〇ハンバーガーはなぜ人気?


外出自粛期間で持ち帰りが推奨されていた時のこと。
色々なお店が弁当や持ち帰り専用商品を始めて、慣れないながらにも何とか売り上げを伸ばそうとしていた。応援の意味を込めていくつか試したものの、やはり「お店で食べるのが一番おいしいね」という結論に落ち着いてしまう。あの器や、お店の雰囲気あってこその料理のおいしさなのだろうとひしひしと感じた。他のお客さんも同じような意見なのか、賑わいを見せるお店はあまり見かけない。


そんな中、家の近くに、「なんか繁盛しているな…」と傍目からもわかるような飲食店があった。持ち帰り時に店頭に行くだけなので他のお客さん同士の接触は防止できているものの、毎日そこそこの人数が利用しているようだ。
一体何屋なのだろう…?
休日のランチ時に利用してみることにした。
近付くとログハウスのような外観で、店先に小さなアメリカ国旗が揺れていた。
看板を見るとそこは、チェーン店ではないオリジナルの「ハンバーガーショップ」だった。


ハンバーガショップと言えば、数年前からこだわりの食材を使った店が増えた。アメリカナイズされたおしゃれな内装。野菜やバンズ、ハンバーグの肉などの食材を選び抜き、ドリンクも種類豊富に取り揃えている。チェーン店よりもずっとおしゃれなバーガーは、しかし往々にして軽く1000円を超えてくる。チェーン店のハンバーガーの安い値段感を肌で覚えてしまっている身からすると、いくら食材にこだわっているとはいえ最初は結構びっくりする。サイドメニューを付けてしまった暁には、いつの間にか映画館で映画1本見れる値段に…!なんてこともある。


 この店もそういう類のものだった。一番安いアボカドバーガーが990円(税別)する。次に安いアボカドチーズバーガーに至ってはもう1000円を超えている。

「ハンバーガーなのに!?」
喉から出かかるそういった声を、ここはぐっと我慢する。メニューに書いてある説明書きを読んで自分を納得させたい。ふむ、バンズの配分にもこだわり、野菜も全国の農家さんから厳選したものしか使わない…。うん、わかるよ、食材にこだわってるんだよね、そうか…でも…。

「ハンバーガーなのに!?!?」
という気持ちはなかなか抑えられない。もう埒があかないので、「えいや!」とアボカドチーズバーガーを注文した。


「今から焼きますので20分程お時間いただきます」と言われ、時間を取って再びお店を訪れる。店内には肉の焼ける香ばしい匂いが漂っていた。商品を受け取る。
「ん!?」
袋を受け取ってまず最初に思ったのは「重っ!!」ということだった。ビール缶が2~3本入っているのかというくらい袋が重い。
中を見てみるとものすごいデカい塊が入っていた。ちらっと確認する。間違いない。正真正銘のハンバーガーだ…。


自宅に戻り、熱いままいただく。袋をめくると、ちょっと信じられないくらいのボリュームの料理がそこにあった。バンズからはみ出したハンバーグ、飛び出したキャベツとトマト、スライスして丸ごと突っ込まれているアボカド。かろうじてハンバーガーの体を保っている。これらが今から胃の中に入って自分の体重になるなんて…ちょっと信じたくない。
しかし、一口食べて考えを改めた。

う、うまい……!
あたたかいバンズと冷たい野菜のギャップ、噛むと肉汁がぎゅっと溢れてアボカドがにゅっと潰れて味が変わる感じ、それが一緒くたになって混ざりあい、「これぞハンバーガー!」というジャンクな味が広がる。
や、野生の味だ…!
やっぱりこだわったハンバーガーはおいしかった。よかった~~~
そう思って食べ進めたものの、半分を過ぎた頃から事態が変わった。お腹がいっぱいで全然進まないのだ。しかも、食材を均等に食べ進められず、その姿はぐちゃぐちゃでよくわからない料理になっていた。

滑り出しがサイコーだっただけに、私はその惨劇を見て悲しくなってきた。「この食べ物、中身バラバラでもいいじゃん!」と思った。全部きちんとお皿に盛って食べた方が見た目も美しいし、何より適量食べられるのではないだろうか。
そこで、素朴な疑問が浮かんだ。
ハンバーガーは、なぜこんなに人気なんだろう?
というか、そもそもアメリカ人になぜこの料理はこんなにも好かれているのだろう。


バーガーの構造をまじまじと考えてみた。
ここに入っているのは、数種類の野菜と、ハンバーグだ。それをパンで挟んでいる。

…!? 

そこで初めて気づいた。この料理は、サラダ、メイン、主食が全部片手に収まっている!
そうか、これは日本で言う「定食」の形なのでは…!?
もしかしたら、アメリカ人は「この手軽に全部食べられる感じがサイコー!」と思ってハンバーガーを食べているのかもしれない。そうか、それならわかる。わかるぞ…!この感覚は、なんだか身に覚えがある。この、すべてをまとめてちゃちゃっと食べられる感じ…。

猫まんまだ!

すべてお椀の中に入れてしまえばもっと手軽!みたいな、手の中で料理が完結している!みたいなこの安心感。
そうか、アメリカのハンバーガーは、日本の猫まんまのような立ち位置だったのだ。
そう思うと、手の中でつぶれているハンバーガーがなぜか急に愛しくなってきた。
もはや、形などうでもいい。猫まんまを豪快に混ぜて口に流し込むように、ハンバーガーを豪快につぶして口に放り込みたい。そして、その味と野蛮さを楽しみたい…!


自粛で世界がきゅっと狭くなっている時に、ハンバーガー店が繁盛していた理由がわかった気がする。

おもむろにハンバーガーでグローバルな視野を手に入れた出来事だった。




(食欲をさがして 21)