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◎道後温泉クリエイティブステイ日記⑤


滞在5日目は作業日。できるだけ出歩かずに過ごそう…と思っていたのに結局色々と回ってしまった。

朝食を食べて道後温泉本館に向かう。昨夜、霊の湯に入りに行ったものの、人が多く整理券配布になっていて「本日は終了」と言われてしまったので、早めに行っておこうと思ったのだ。(本館は只今改修中で、大きな幕がかけられている。訪れた人は霊の湯に入れるようになっている)


入口の前で写真撮影している人が多くいたので「すわ、また入れないのか…!?」と思ったものの、受付に行くと案外すんなりと入れた。
中には私の他に3人程度しか入浴客がおらず、思ったよりもずっとゆったりできた。湯の窯から注がれるお湯をそのまま肩に当てている年配の方がいて、その気持ちよさそうな表情にこちらもほっこりする。壁には白鷺と、高貴な服装をした二人の人間の絵が書かれていた。ざぶん、と恰幅のよい女性が湯船に入ってきてスクワットを始めたので、お湯がざぷんざぷんと立つ。その揺れに身を任せていると、海のことを思った。空いていたこともあるのだろうが、道後で入った中でここの空間が最も好きかもしれない。

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朝風呂後はカフェで作業を行った。ひと段落したので、道後の町屋で珈琲、ユノマチベーカリーでパンを購入し、湯築城跡のベンチで食べる。湯築城跡は本当に動物がたくさんいて、中でも白鷺は本当に毎日見る。今日は猫がカワセミを狙っているところを見ながら「いよかんバゲット」を食べた。人気商品と書いていたのも納得のおいしさで、もちっと噛み応えのある生地に爽やかないよかんの香りがふっと抜ける。噛んでいると奥から柑橘ならではの苦みも感じられて、ついつい食べ進めてしまうのだった。食べながらふと「あ、いよかんって、伊予の柑だからいよかんなのか…」と当たり前のことに気付く。
観光客が寒そうに足早に公園を散歩している。昨夜からすっかり気温が下がって、本格的に冬を感じた。滞在中はTVやネットの情報を遮断しているものの、お風呂や足湯なんかで話をしている人の声をちらほら聞き、何となく世間の情報をキャッチする。北海道で吹雪になったこと、あとは新型コロナウイルスの新種の情報なども。

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ご飯後に石手寺に向かう。先に滞在されていた方の情報で、かなりキッチュなお寺だということでぜひ行きたいと思っていた。ちなみにお遍路のお寺でもある。
思っていたよりも道後の中心から離れていて、歩きながらPCの入ったリュックが肩にめりめり食い込んでくるのがわかる。到着した頃にはへろへろで、そのせいもあるのかお寺のパワーにすっかりあてられてしまった。境内にあるおびただしい数の石像、くねくねと縦横無尽に広がる参道、その脇に立っている強烈なメッセージを発している旗の数々。

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洞窟に足を踏み入れたものの、閉所と暗所で発狂しそうになり途中で引き返した。あと、足元の段がまちまちの高さなのでかなり歩きにくい。再訪する際は体調を万全にして行きたいなと思いつつ、最後に大仏大集合の広場を見て帰る(スピーカーからずっとお経が流れていて迫力がすごい)。カオスという言葉を実現したようなお寺で、聞いていた通りなかなかなディープスポットだった。満喫はできなかったけど、行けて良かった。

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帰りに松山市立子規記念館へ。
丁度館内のガイドさんが説明してくれる時間だったようで、お願いした。他のお客さんも連れだって回るものだったので逐一質問などができないのが心残りだったものの、子規の人生の要点をかいつまんで話してもらえるのでありがたい。そして、この子規記念館の特別のものだろうか?制服のワンピースがシックでとても可愛い。襟のところが二重になっており、花のように見える。

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話を聞いていておもしろいなあと思ったのは、道後に来て以来毎日何かしら「夏目漱石と正岡子規」のエピソードは聞くのだけれど、先日のガイドさんたちからは「夏目漱石は、正岡子規が自分の住んでいた愚陀仏庵に転がり込んできたことを最初は少し迷惑に感じていた」というニュアンスで話していたのだが、さすが子規記念館と言ったところか、今回のガイドでは「夏目漱石も、東京の学び舎で同級生であった子規の到着を楽しみにしていたということです」と話していたところだった。話す人によって少しずつ印象が変わってくる。


実際に当時の漱石は英語の教師ということで相当お給料をもらっていたらしく、二人でご飯を食べると漱石が出すこともままあったそうだ。また、「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」の有名な子規の歌は、漱石と子規が二人で暮らした後、子規が東京に帰るまでの旅の道中で詠んだ歌だそうで、その旅に使用したであろうお金は漱石が松山で子規と別れる際に渡したものだったという。
こうもお金のことを色々言われると「友人にお金を渡してあげていた漱石、それを遠慮なく受け取っていた子規」みたいな図が浮かんでしまうのだけれど、実際のところはどうだったのだろうか。


この他にも子規記念館では愛媛や松山、道後に関する歴史や文化の展示も充実しており、今回の滞在で歴史文化館に行けそうにない私にとっては大変ありがたかった。ミュージアムショップには昔の道後温泉の白黒写真を用いたポストカードなどもあって、なかなかの充実度。道後土産を探している方にもおすすめ。

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疲れたのと寒さがこたえるので、道後うどん「おとら」へ。名物の「おとらうどん」を食べる。ベースは豚汁うどんで、そこにじゃこ天や鯛かまぼこ、さつまいもなどの野菜がたっぷりと入っているボリュームのある一品。ほくほくで店を出ると、夕陽で赤々と町が染まっていた。

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道後の商店街を歩きながら、もぐさ・タオル屋さんで「坊ちゃんバスタオル」を購入。ずんぐりむっくりの坊ちゃんのキャラクターデザインが昭和のままで、新しいのに「これいつの時代のやつ?」と聞きたくなる愛らしさ。お店のおばあちゃんに「これはね、かわいいです」と言われてお互いにこにこする。道後は昔から竹細工が有名だったそうで、隣の竹細工屋さんで竹を切り出したコップも購入。かるくて丈夫、お土産にとてもいいのではないだろうか。

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一度宿に帰った後、とうとう待ちに待ったニュー道後ミュージックへ。
「道後に、四国唯一のストリップ劇場があります」と言っていたのはクリエイティブステイの事務局の方で、滞在中に絶対に行くと決めていた。
行ってみると初日に場所を確認した時よりも随分たくさんの人が受付周辺におり、「これ初めての人が入っても大丈夫なやつなのか…!?」と思う。どうやら今日はイベントと言われる演目が二つも重なっており、土曜日ということもあって普段よりもお客さんの入りが多い日だったらしい。

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(初日に確かめに行った時の写真)


受付でお金を払い、場内へ。舞台との距離が近く、真ん中の円形舞台を囲むように座席が配置してあった。すでに何人かお客さんが入っており(男性ばかり)、空いている席に座るものの「ここって座って大丈夫なのか?常連さん的な人が『いやここは自分の席って決まってるんですけど』みたいな感じにならない…!?」と気が気ではない。その時、「初めて演劇を観に行く人」の気持ちが久しぶりに分かった気がした。本当に、何もわからないのだ。お金はどう払うのか、席はここでいいのか、観劇態度はこれでいいのか。そういう逐一に緊張するのだということを、やっている側はつい忘れてしまう。「演劇を観たことない人も観てほしい」とか言ってないで、自分も気をつけねば…とそんなことを思っていたら、MCの方のゆるい音頭でステージが始まった。


内容がどうこう、構成がどうこうなどとここに細かく記すのは野暮だと思うので書かないけれど、ひとことで言うと、本当に素晴らしかった。

まず思ったのは、「体幹が…すごすぎる…」ということだ。
ただ服をうまく脱ぐということじゃない。所作、息遣い、目線、そしてポーズ。優しい表情で、おそろしく難しいポーズを次々と決めていく。強靭な体幹としなやかな筋肉を持っていなければできないと思う。「すごい…」と声が出た。これはもう、うちの劇団のすべての役者に観てほしいと思った。踊り子さんは、ものすごい技術職だったのだ。


そして皆さん、言わずもがな信じられないくらい美しい。鍛えられたふくらはぎや、身体のやわらかい曲線、照明を受けてきらきらと輝く肌(黄色の照明があんなに肌をきれいに見せるなんて!)。
やはりメインの流れは「服を脱ぐ」というところなので、性的なポーズや意味合いをなぞって演技が進んでいくのだけれど、少しすると、視線はもっとすなおな方へうつっていく。


ポワントにした足先のきゅっと寄っているしわとか、つむじからふわふわっと浮いている髪の毛とか、座った時に体重を支えて赤くなっている肘とか、その部分がたまらなく愛しく感じられるのだ。
途中、こんなに美しい身体を見ているほどんどが男性だと言うことに、なんだかものすごく腹が立ってきた。何なんだ男性、ずるいだろ男性、と思った。


こうして踊っている姿を見ていると、ふいにこれまで通り過ぎてきた女友達のことが思い出された。明るく振舞う人や、影を抱えている人、もういなくなってしまった人など、たくさんの姿が浮かんでくる。
最後に「女性だけのサービス」と言って、踊り子さんが客席まで来てくれて、少し困り眉で私の手を取り、その胸にぴたっと密着させる。
驚いた。
その胸はやわらかく、それでいて、とても冷たかったのだ。
そうか、このステージの上で、彼女たちは裸でパフォーマンスしているのだ。戻っていく姿を見ながら、手の平に残った冷たさに、急に切ない気持ちがこみ上げてきた。

たまたま生まれて、女性という身体をあてがわれて、それで生きている人々に、なんだか急に親近感というか、応援したい気持ちがどっと溢れた。
しあわせになってほしい、どうか。みんな、しあわせになってくれと、何とも言えない祈りのような思いがこみ上げてくる。あと少ししたら、泣き出していたかもしれない。それくらい、確かに心揺さぶられていた。


こうして人生初めてのストリップ観劇は幕を閉じた。



結局、私は三つあるうちの二つの演目を見て劇場を後にした。
外に出ると、歩いている人みんなが服を着ていていっしゅん頭が混乱した。扉一枚入れば裸を見せている空間がすぐそこにあって、でも外界ではそんなこと少しも考えずに時間が過ぎていて、この隔たりって、人間社会って何なんだろうと考える。

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部屋に帰ってカバンを整理していたら、ニュー道後ミュージックでもらったペンライトが出て来た。演目の前に「応援してくださいね」と踊り子さんが持たせてくれたものだった。もうとっくに光らないので捨てればいいのだけど、何だかもったいなくて、今でもそのままカバンに仕舞っている。




(⑥に続く)