2023年9月に観た映画
アル中女の肖像
「ウルリケ・オッティンガー ベルリン三部作」特集上映にて鑑賞。
ここまでひたすら登場人物が酒を飲み続ける映画も珍しい。
主人公は歌うことはあっても、ほとんど言葉を発することもない。
酒を飲む。グラスを割る。荷物をぶちまける。鏡を濡らす。
彼女はなぜこんな状態なのか?彼女の行動原理は?
観客はつい考えたくなるものの、特に意味や理由はないのかもしれない。
男同士がひたすら飲み交わし(でもそれがマッチョの方向へはいかない)、「酒はよくないからやめよう」という教訓メッセージではなく「俺は飲み続けるぜ!」な人生賛歌で締める『アナザー・ラウンド』という映画が2021年にあったが、その女版ともいえる作品がこんなに昔に既にあったとは。
まだグラフィックのない、当時の「ベルリンの壁」がある暗い街の雰囲気も相まって、社会的な面もある作品。
ヒールの音を颯爽と響かせるオープニングと対になるエンディング。
もうギリギリだけど、それでも彼女は自分の足で前に進んでいる。
変てこシスターフッドとしても興味深い作品かもしれない。
女性たちの美しい衣装・ヘアメイクはもちろん、謎のパン服も必見。
上映後には、ファスビンダー傑作選で字幕も手掛けられている渋谷哲也氏の解説トークもあって、面白かった。フォルカー・シュペングラーが出ていることは解説を聞かないと分からなかったかも。
ファスビンダーとオッティンガーの作風の違いとか、どれもためになる話ばかりで作品理解も深まったと思う。
特集上映でもしなければ一生知らずに終わった作品だと思うので、この機会があって本当に良かったと思えるほど、素晴らしい作品。
アステロイド・シティ
「劇作家が書いた物語を俳優たちが演じる様を、司会者の進行つきでテレビ中継する」ところを観客が観る、という複雑な構成になっている今作。
そんな劇作家を演じるのはエドワード・ノートン。
とにかく目で受け取る情報量と耳で受け取る情報量が多いので、一度で物語を全て理解し追うことはできなくても、ただ映画館の椅子に座り、ただ目の前の画面で起きていることに身を任せるのも楽しい。
写真展が開かれるほど、今やウェス・アンダーソンの画作りは唯一無二のアイコン。
いろんなことが起こるが、これはひとつの家族が喪失から再び歩きだす物語。
おませな娘3人が可愛い。
スペインの郊外に実際にセットを建てて撮影したとのことで、ウェスの映画ではいつものことだがメイキングも合わせて見たくなる。
作品を重ねるごとに大所帯になっているような、豪華俳優陣の顔ぶれを見ているだけでも「次は誰が出てくる?」とわくわくするし、スカーレット・ヨハンソンは真顔が映える。
ウェス・アンダーソンは9月27~30日にかけ、Netflixで1本ずつ短編映画『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』『白鳥』『ネズミ捕りの男』『毒』も公開している。
どれもロアルド・ダール作品の映像化で、カラフルでポップな色使いの中に差し込まれる皮肉から、ウェスとダールの相性の良さも知ることができる。
まるで救いがないけれど、今回公開された短編では『白鳥』が一番好き。
ほつれる
『あのこは貴族』に続き、裕福な環境で生きる品のある女性役がぴったりな門脇麦(裕福具合は『あのこは貴族』の方が比じゃないが)。
綿子と夫の服や身に着けているもの、家の雰囲気などでこの2人が洗練された人だということが分かる。
そんな何不自由ないように見える夫婦。しかし、見かけや外からは分からない「ほつれ」が確かに存在している。
どこかこの作品では天使感もある染谷将太。
2人が一緒にいる時の空気が尊いものであることは観客にも伝わるようになっており、不倫ものといっても今作で描かれる身体表現はせいぜい手を繋ぐくらいなのも印象的。
夫が醸し出す嫌~な感じも、これまた夫役の俳優が上手いからこそ。
とはいえこの夫も根っから悪い人というわけではなく。
演出や台詞など、これはある程度俳優に任せたシーンがあるのでは?と思いきや、細かいところまで全て脚本に書いてありリハーサルもめちゃくちゃ回数を重ねたとのこと。
だからこそアドリブ?と思ってしまうほど、キャラクター本人から出ているようにしか見えない台詞や動きがある。
タイミングとかも絶妙なシーンが多いことから、相当リハーサルをしたのだろうということが伝わる。
誰かと会話すること、誰かと一緒にいることの加害性について考えてしまう物語。
ずっと心がヒリヒリする物語であるものの、なんだか思わず笑ってしまうような気まずいシーンも。
そして最後、その台詞で締めるか…。
そしておそらく劇中で一か所だけ?流れる石橋英子さんの音楽も素晴らしかった。
元になった戯曲を本にした『ドードーが落下する/綿子はもつれる』も読んでみたくなった。こっちは「もつれる」。
ジョン・ウィック:コンセクエンス
シリーズを重ねるごとに死のハードルが高くなっていき、4作目でそれは頂点に。
もう身体に当たった弾はカウントしないんじゃないかというくらい。
おそるべき防弾スーツ。
映画的というよりゲーム的なのかもしれないが、撃ったら発火するタイプの銃で敵を次々攻撃する様子を上から俯瞰してワンカットで撮っているシーン(リンク先劇中シーンのためネタバレ注意)が印象的。
あんな銃があるのか…と思ったら、「ドラゴンブレス弾」という名前で実在するものらしい。
ランス・レディックが出てくるシーンは切ない。
彼の出演作をいろいろ観てるわけでもないしジョン・ウィックシリーズも最近観始めただけでそこまで思い入れがあるわけでもないのだけれど。
やっぱりシャロンというキャラクターはこのシリーズに欠かせない人だったと思う。
真田広之にドニー・イェンにリナ・サワヤマ、アジア出身勢それぞれがみんな最高にかっこいい。
ドニー・イェンは『ローグ・ワン』とキャラ被ってないかと思いつつ、今回は座頭市感強め。
大阪コンチネンタルホテルが国立新美術館だったり(外観が気に入ったのかな)するけれど、今回観て一番びっくりしているのは大阪の人ではなくパリの人な気がする(どんなに銃撃戦が繰り広げられて人が車にはねられ続けても止まらない車たち!殺し屋ラジオ局がエッフェル塔の中!)。
それまでも物凄い量のアクションを見せてくれたのに、駄目押しの階段!からの美しい朝焼け。
こんなにバリエーション豊かなアクションを見られる映画もないはず。
ジョンと同じ疲労感を観客も味わい、観終わった後は大満足。
そしてこの『ジョン・ウィック』はどこまでも犬を愛するシリーズなのです。