2022年9月に観た映画
以下、作品のネタバレを含みます。
ウォン・カーウァイ4Kの特集上映で鑑賞した『恋する惑星』『天使の涙』は、また別に記事を書きたいので今回は省略。
『沈黙のパレード』は以前記事を書いたので省略。
NOPE
『ゲット・アウト』『アス』のジョーダン・ピール最新作。
一言では説明できない、しかし確かな強いメッセージ性を帯びた作品が特徴的な監督である。
冒頭からいきなり、自分は何の映画を観に来たのかと驚かされる。
テレビのコメディ番組(おそらくシットコム)に出演していたチンパンジーのゴーディーが、共演者の人間達を襲い、撮影現場が血の海と化している。
元ネタになった事件を調べると、今作の特殊メイクの方が控えめという恐ろしいものであった。
UFO(地球外生物?)だったり動物だったり自分とは異なる出自や文化を持つ人について、よく知りもしないのに勝手に理解できると思ったり、あわよくば思い通りに手懐けれるなど、決して思ってはいけない。
ということを、この作品は伝えようとしているのかもしれない。
UFO撮影大作戦が決行されるシーンは、こちらも気持ちがどんどん盛り上がる。まるで西部劇である。
捕獲もしくは撃退ではなく、撮影が目当てだというところが本作の面白いところ。
しかもiPhoneで撮るのかと思いきや、カメラマンのホルストはまさかのIMAXカメラを持参する張り切りよう。
そして最終的に「奴」の姿をはっきりと撮ったものは、「連続で撮影された写真」である。
序盤から言及されているが、本作は「映画史」についての映画である。
映画の元祖とも言われている、エドワード・マイブリッジの連続写真「動く馬」。
歴史を変えた作品であるが、その写真家の名前だけが残り、世界最初の映画俳優と言ってもいい人であるにも関わらず、あの馬に乗っている黒人は世に知られていない。
本作はそれに対するリベンジのような物語だ。
スティーブン・スピルバーグの『未知との遭遇』が始まったかと思いきや、最後は「はいチーズ」と言わんばかりの"Smile, You son of a bitch!"からの2人とも無事で良かった~で終わる感じが『ジョーズ』だし、唐突なAKIRAオマージュは笑っちゃいながらもアツいし。
結局みんな、スピルバーグとAKIRAが大好き。あとエヴァも。
スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム THE MORE FUN STUFF VERSION
様々な意味で記録的な作品となった『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。
新たに11分の映像が追加された新バージョン。
個人的な感覚としては、割と前半に追加シーンが多い印象。
だいたい後半になればなるほど重要シーンが増えていくので、そもそも後半はあまりカットしておらず、撮ったものをほとんど使っていたと考えれば普通。
特に学校でのシーンが増えていて、前作『ファー・フロム・ホーム』ではネッドと期間限定の恋仲?になっていたアンガーリー・ライス演じるベディの出番が大幅に増えていて、彼女のファンが編集した?と思えるほど。
やたら尺をとったインタビューのシーンは、劇場でも笑いの声が。
もっと「楽しい」バージョンなら、メイおばさんは死なないし、ピーターが最後に過酷な運命をひとりで背負うこともなくなる…!?と一瞬思ったが、勿論そんなことはなく。
とにかく、またあの3人のスパイダーマンに会えたことが嬉しい。
大好きなジェイク・ジレンホール演じるミステリオにも、また劇場で(2秒くらい)会えたことも嬉しい。
そもそもミステリオがあのやらかしをやらなければ、スパイダーマン3人の奇跡の出会いは無かったわけで…と、自分のいいようにMORE FUNに考えて劇場を後にした。
LOVE LIFE
再婚した夫、前の夫との子供と3人で平穏な団地暮らしをしている妙子。しかし、彼女らを突如不幸が襲う。
CGを使っていると分かっていても、なかなか正視し難い辛いシーンが序盤から登場する。そこをじっくりと長回しで撮る容赦の無さ。
「子供から目を離してしまうこと」により起こる悲劇であること、それにより親が自身を責めてしまうことは、図らずもタイムリーな話になってしまったかもしれない。勿論、このような悲劇が起きた際に親を責める権利は誰にも無い。
私達の何気ない日常の中に、地獄は存在するという描写は深田作品らしい。
決定的な不幸な出来事以前にも、支え合う存在であるはずの家族から妙子に向けられる心無い言葉。
家族というのは、最も近い「他者」なのだと改めて思い知らされる。
序盤から不穏な感じが漂う今作であるが、やはりどこか笑えるシーンがあるのも深田作品の魅力。
全力で逃走する山崎紘菜演じる山崎(元陸上部)の足が異常に速く、誰も追いつけないところを遠くから撮った画が面白い。
妙子の前の夫、パクとの再会で更に物語は大きく揺れ始める。
今作は、コミュニケーションについての物語と言える。
今の夫は人と目を合わせようとしない。
しかし妙子がパクと手話で会話をするときは、正面から向かい合って目を見て話す必要がある。
つまりパクこそが、妙子と確かなコミュニケーションをとることができ、このふたりこそが真に通じ合っているのだ…といった安易な着地にはならないのが深田監督。
タイトルが出るところも印象的な作品である。
印象的と言えば、韓国の謎のヒットチューン「オッパ~オッパオッパ~」がしばらく頭から離れない。何なんだあの曲は。
オセロのように白黒はっきりといかないのが、人間というものだ。
よだかの片想い
主演の松井玲奈&中島歩の舞台挨拶付き上映があるということで、「生の中島歩に会える!」というかなり邪なきっかけで鑑賞。
彼女の顔の痣は、きっと様々なものに当てはめて考えることができるのだろう。
人と人が関わり合うことの難しさと、尊さについての物語。
すべて上手くいく、万事OKとはいかなくても、確かにそこには希望がある。
コンプレックスは隠さなくてもいい。
しかし、全てをさらけ出して「ありのまま」でいなくてもいい。
本作はアイコと飛坂の恋愛物語なのだが、女性達の連帯の物語でもある。
藤井美菜先輩がいてくれるなら、ラテ研にも入りたい。誰かにとって自分もあんな「先輩」になりたい、なんて烏滸がましいことを考えてしまうような素敵なキャラクターだった。
観ながらなんとなく、主演の松井玲奈さんの著作『カモフラージュ』に登場する女性たちのことも考えていた。
原作も読んでみたい。
舞台挨拶で見た主演の2人は本当に素敵で、この作品に向けた想いや撮影秘話などのトークもとても楽しく、豊かな時間となった。