《対訳》 Courage / Lianne La Havas
《Lyrics》
アア、ダメになっては立ち直って
あの時、私たちが世界の全てだった でもずっとじゃない
そのことがゾッとするぐらい私を寂しくさせる
1人じゃいられなくなる
愛ってどうしてこうなの
勇気を出してどうにかしなきゃ
それ以外に前を向く方法なんてないから
あなたの言葉にいいなり
考えないようにしてるから
いっつも
だからその分歌うの
このメロディーを1つ残さず
たぶん、私は学ばない
だって、私の番じゃないから
私がただ夢みてるだけになるかな
こんな風に一緒にいたかった
その表情を向けて欲しかった
そう思う心って2人にあるって、違ったっけ?
そんなに寂しくならないように、今
愛なんて求めてもね
でも、どうにかしてよ
それしかもう無理
背中から冷えてくる 勇気が欲しい
愛がいつも私をダメにさせる
勇気を出して どうにかするの
それ以外に前を向く方法なんてないから
訳について
この曲が収録されたアルバム『Lianne La Havas』は、世界的R&Bシンガー/ミュージシャンのThundercatとの破局を乗り越えて彼女が制作したアルバムだ。アルバム全体を通して、彼女は愛について歌っていて、それぞれの曲で歌われる詞の内容がプライベートな2人の恋愛の写し鏡だとは考えないけれど、そこには少なからざるリアリティや想いが宿っているように感じられる。
“So lonely now Love is the only way down”という言葉が1度目と3度目のプリコーラスで歌われ、2度目はプリコーラスでは“And not to be so lonely now Love is the only way down”と彼女は歌う。ダメと分かっていてもその人を求めてしまう心と、冷静になってその人を遠ざけようとする心が行ったり来たりするような構成で、“Courage”は「もう一度愛した人に連絡する勇気」と、「心に残るその人への愛に囚われてしまう自分から脱却する勇気」の、全く逆方向に向く、異なった勇気が一緒くたになっている言葉のように感じられる。また、“Courage”は自分の中にあるものだけど、それに“save me how”と助けを求めていて、「自分自身ではまだどうしようもできない」というフィーリングと、「勇気を呼び起こして自分でどうにかしたい」というフィーリングのその両方を、「呼びかけ」るこの言葉から感じた。
3度目の“So lonely now Love is the only way down”という部分は、冒頭の“It’s making me terribly lonely”にあてた「ゾッとするぐらい私を寂しくさせる」という訳語と呼応するように、思い切って「背中から冷えてくる 愛がいつも私をダメにさせる」という言葉をあててみた。「ゾッとする」という言葉から「背中」という言葉を導いて、寂しさから「冷え」という言葉を導いた。
この対訳は決して正しくはない。しかし、単純に言葉通りの意味を英語から日本語へそのまま移し変えるよりかは、言葉の持つフィーリングを抽出して、別な日本語で表現してみた。目的意識が先行して、論理性に欠けているかもしれない。ただ、歌詞を訳すということは、ともすると言語を置換することの限界に挑戦し、その限界に向き合うこと、そして敗北することなのかもしれないと考える。歌詞を翻訳する人1人1人によって、息遣いや使用する日本語表現、語義を踏まえて前面に押し出す言葉の意味――つまり、曲の解釈――が少しずつ異なるから、翻訳の可能性はどこまでも無限に広がっているように感じられる。しかし、オリジナルな言語の持つ解釈の幅、多義性をその通り残したまま訳することは不可能だ。だが、そんな世界に頭を浸すことはちょっとした楽しさや喜びを感じられることでもある。
参照文献
The Guardian “Lianne La Havas: 'It's hard to fit in when you have two heritages” :
GENIUS Courage / Lianne La Havas :
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