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golchiki
貯まる10周年 #ショートショート
やった…、やっとだ…！
震える指でシールを剥がし、台紙の枠線に収まるよう慎重に貼る。
くる日もくる日も、雨の日も風邪の日も、盲腸の日でさえパンを食べ続けた努力がようやく報われようとしている。
春のパン祭り10周年記念！
10年貯めてもらおう、白い家！
貯まる頃には20周年になってるんじゃないか？
そんな疑問は野暮だ。俺はその日から夢中でパンを食べ続けた。
手料理を食べない俺に見かねて、妻は子どもを連れて出て行った。体型はアンパンのように中がぎっしり詰まって丸くなり、栄養失調で食パンのように白くなった。それでも構わない。うだつの上がらない五流リーマンの俺が、ついにマイホームを手にする日がきたんだ。
何しろそのパンを置いている店が少ないから、見つけては買い占め、見つけてはまた買い占める毎日。年々店が減っていて苦労したが、先月出張先のスーパーで在庫処分セールの中に紛れているのを見つけたときは、天啓を感じたものだ。
シールを何度も数え直し、シャワーを浴びてスーツを着込み、無事ポストに投函。
最近聞かなくなったお馴染みのCMソングを口ずさみながら浮かれ気分で家へ帰る。
テレビをつけると、その製パン企業の経営破綻のニュースが飛び込んできた。
意識が遠のく。
見慣れた我が家が、みるみる真っ白になっていった。
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この作品は以下の企画に参加しています。