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相澤敦/あいざわ農園
相澤敦/農園名:あいざわ農園
農園所在地:埼玉県朝霞市
就農年:2019年(就農6年目)
生産品目:少量多品目
妻の実家を継いで脱サラ就農、ちょっと視点をずらした楽しい農業で人とつながり地域に貢献する
■プロフィール
埼玉県朝霞市出身。非農家の家庭に生まれ、農業とは無縁の環境で育つ。
大学院では土木工学を専攻し、卒業後は東京の大手ITソリューション企業に就職。15年間の在職中に42件の特許を取得するなどの実績を残した。
「視点をずらしてものごとを見ると新しい発見がある」という考え方を大切にしている。
妻の実家は江戸時代から続く農家。大学時代に知り合った妻と結婚後も地元・朝霞市に住み、東京へ通勤していた。
地元に貢献したいという思いが強まる中、義実家の農業の継承が課題となり、自ら農業を志すことを決意した。
未経験からの挑戦だったため、まずは体系的に学ぶことを選び、社会人向け農業スクール「アグリイノベーション大学校」へ入学。最初の半年は会社勤めと並行し、その後は退職して義実家の農業を手伝いながら学ぶ。卒業生の活動にも触れ、農業の可能性を広く知る機会を得た。
2019年、39歳で妻の実家の農業を承継し、「あいざわ農園」の園主として新たな一歩を踏み出す。埼玉県朝霞市の農地2ヘクタールで義父母とともに、ニンジンやホウレンソウをはじめとする露地野菜を少量多品目で栽培。
住宅街の真ん中でユニークな作物を育てるとともに、朝霞市特産のニンジンを活かした6次産業化に取り組む。ちょっと視点をずらした発想で、「楽しい農業」を通じて地域への貢献を模索している。
■農業を職業にした理由
結婚するとき、妻から「農業を継ぐ気はあるか?」と聞かれ、即座に「ない」と答えた。農作業の経験もなく、農業に興味もなかった。正直なところ、「自分がやるわけがない」と思っていた。
しかし、最終的に農業を選んだ理由は、地域とつながり、地元に貢献できると考えたからだ。会社の仕事も面白く、実績を積み重ねる中での決断だったが迷いはなかった。
こうして、サラリーマンとは全く異なる環境に飛び込むことになった。「最初は地に足がつかない、ふわふわとした感覚だった」と振り返る。
休日の考え方など働き方も異なるが、最大のギャップは、仕事の進め方だった。会社では上司や同僚と相談しながら進めていたが、農業ではすべて自分で考え、決断しなければならない。特に新しいことへのチャレンジは、何が最適なのかわからない。自分で答えを出すことに慣れるまで時間が必要だったが、それは苦労のうちに入らない。農業は創意工夫が楽しい。
もともと地域の消防団にも所属していましたが、就農と同時に4Hクラブに加入。さらに、就農2~3年後にはPTA役員、今年からはJA青年部理事など、できる役はすべて引き受け、積極的に地域とのつながりを築いた。
農業は単なる職業ではなく、地域貢献の手段。農業を軸に地元のために働くことを、自分にとっての新しい使命とした。
■農業の魅力とは
就農を決めた理由のとおり、地域とつながり地元に貢献できることです。特に都市農業は、地域の人との接点が多いことが魅力だと思います。
妻の実家はもともと露地野菜の少品種大量生産で、販売はニンジンとホウレンソウの市場出荷が中心でした。私は農業を通して地域の人と交流を深めたいと思い、栽培品目をさらに増やして、コミュニケーションの多い庭先販売やマルシェ、スーパーでの直売に力を入れてきました。
その中で、毎年作っているのが、巨大カボチャの「アトランティックジャイアント」です。畑の前を通る人が「何作ってるの?」と珍しがって声をかけてくれたり、畑に転がっている巨大カボチャに驚いてくれたりして、農産物を通してお互いの距離がとても近くなりました。
収穫した巨大カボチャは市役所に展示してもらったり、市内のホームセンターで展示販売もしてもらいました。一昨年はホームセンターで価格を3万円に設定しましたが買い手が現れず、今年は1円で販売しましたがやはり売れませんでした。
といっても本気で売ろうとしたわけではなく、子どもたちがカボチャを触って楽しんでくれたことが嬉しかったです。カボチャは地元の小学校の始業式にも持っていき、学校の子どもたちを驚かせたりしました。内容を新聞にも取り上げてもらい、自分の学校が新聞記事に載ることでも、子供たちに喜んでもらいました。
朝霞市はニンジンが特産品ですが、地域の人でさえその実感がありません。地元のスーパーに千葉県産のニンジンが大量に積まれているのを見たときは衝撃が走りました。
地域の人に特産品のニンジンを知ってほしいという思いが、6次化に取り組むきっかけです。ニンジンの加工品といえば、ケーキやジュース、ジャムなどが思い付きますが、それらをすでに作っている食品メーカーにはかないません。そこで、考えたのがニンジンのお酒です。既存の商品はほとんどなく、みんなが集まる場所で話題になるのではないかと。
こうして朝霞産ニンジンを原料とした本格人参焼酎「へべれけ」を商品化すると、おかげさまで初年度から注文が殺到して販売にも成功。モンドセレクション2024スピリッツ%リキュール部門で金賞を受賞しました。地元の居酒屋や飲食店で楽しく飲んでほしいです。
農業にはちょっと視点をそらして見ると、面白くなりそうなことがたくさんあります。こうして人を楽しませながら、地域に貢献できることがやりがいです。
■今後の展望
朝霞市特産のニンジンを使った6次化で、新しい取り組みを始めました。ニンジンを使った手すき用紙づくりです。障がい者が多く働く東京都チャレンジドプラストッパン株式会社と連携して手すき和紙を作ってもらいました。うっすらとしたニンジンの色が着いて葉がいい風合いの柄になります。まだ試作中ですが、本格人参焼酎と並ぶ朝霞市のお土産やギフトになればと思います。こうしてニンジンで面白いものやことを創造していくことは、ライフワークとしてのテーマです。
また、アグリイノベーション大学校の同期が代表を務めるリサイクル会社・大村商事株式会社と連携して、地域から出る食物残さや剪定した樹木の枝葉などの有機堆肥を使って地域循環型の農業への取り組みを始めました。朝霞市のSDGs達成の一助になれたらと考えています。
現在、就農6年目ですが、自分自身のゴールは特に定めていません。面白いことを模索して楽しく農業をしていきたいです。大きなカボチャを作って楽しそうに農業をしていたら、地域の人も応援してくれると思いますし、面白いことを探す道のりを楽しんでいきたいと思います。
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