石田 佳奈子/Lienfarm
12年滞在した仏の環境に近い旭川で栽培。真のハーブティー文化を根付かせたい!
■プロフィール
2003年、北海道文教大学在学中の21歳の時に、オーストラリアに留学。帰国後は大学で文化人類学を専攻しながら、アロマセラピーの専門学校に通って、英国IFA(国際アロマセラピスト協会)認定資格を取得。
卒業後の2005年、精油製造技術を学ぶため、フランスへ。語学学校に3年間通ったのち、仏農業省が認定する農業学校でハーブを研究。
20軒近くのハーブ農家を訪ね歩いて伝統的な精油技術を習得し、ブルターニュ地方の片田舎でハーブ農園をスタート。2016年には「Lien」を立ち上げてフランスのラベンダー精油を日本向けに販売開始。
2017年に12年のフランス生活に終わりを告げて、故郷・旭川市にUターン。2018年に新規就農し、太陽の動きや月の満ち欠けに合わせて栽培するバイオダイナミック農法と微生物(EM)を使った自然農法を組み合わせて、40種類以上のハーブ栽培を開始。
この年、自宅で息子を出産するが、3週間後には農作業に戻る。フランスの伝統的製法でハーブティーやスパイス、精油、芳香蒸留水などに加工して販売すると同時に、アロマセラピーサロン向けの講演活動などを行う。
仕事が軌道に乗った2021年、乳がんが見つかったことが転機となり、2022年には法人化して「株式会社Lienfarm」を設立すると同時に、有機JAS認証を取得。
■農業を職業にした理由
留学先のオーストラリアで、オーガニック野菜やハーブが当たり前のように取り入れられている生活を知ったことで、植物が人間の体の健康に深く関わっていることに興味を抱くようになった。
植物療法としてのアロマセラピーを学び、セラピストの資格も取得したが、精油の原料である植物に一度も触れずに卒業したことを物足りなく感じ、本場で精油製造を学ぼうと渡仏。
フランス語を学びながら農業学校でハーブを研究したのち、各地の有機農家に弟子入りしながら、伝統製法による蒸留技術を習得して、ブルターニュ地方の片田舎で自分の農場を持つまでになった。
日本のアロマサロンやセラピストに向けて、精油蒸留職人の師匠にあたるルソーご夫妻とボイヤーご夫妻が作った精油を通信販売したり、講演活動などで日仏両国を往復する生活をおくる日々を過ごすなかで、日本では需要があるのに美味しいハーブティーの入手が難しいことから、自分が国産ハーブを栽培することで食文化として根付かせたいと考えるようになった。
そこで12年間のフランス生活を終えて帰国し、南フランスと同緯度に位置していて環境が似ている故郷・旭川にオーガニックハーブの農園を開園。
現在はシングルマザーとして子育てしながら、家族やスタッフの助けを借りて、栽培から収穫、ハーブティーや芳香蒸留水、スパイス、精油の加工をこなしている。
■農業の魅力とは
現在は、日本人の間でもオーガニックや有機への関心が高くなりましたが、私がオーストラリアやフランスに留学した20年ほど前は今ほど一般的ではありませんでした。
フランスのハーブは野性の状態に近い原種が多いため、肥料を必要としません。人間の力が及ばないところで自然の恩恵を受けることに感謝の気持ちを持つという姿勢をフランス人の師匠から学びました。
殺虫剤や化学肥料をたくさん使う農業は、土壌が本来持っている地力を弱らせるとされますから、私は土地に適した作物を自然なやり方で栽培しています。
環境破壊や温暖化が進むいま、有機農業を通じて地球環境を再生することの意義をさまざまな形で社会に発信していきたいと思っています。
ワークショップで栽培したハーブを使ってコスメを手作りしたり、体調に合わせてハーブティーをブレンドしたり、シロップや石けんなどの製造方法を教えているほか、小中学生の農業体験の受け入れも行っています。
また、かつての私のように、アロマセラピーのサロンや、施術を担当するセラピストに対しても、フランスで出会った生産者がいかに環境に配慮しながらハーブや精油を作っているかを紹介することを通じて、農業を楽しみながら、環境保護への意識を高めることに貢献したいと思っています。
■今後の展望
アロマセラピーを極めるために本場フランスで12年間学んだのですが、いまのメイン事業はハーブティー屋さんといったところでしょうか(笑)。
フレンチやイタリア料理店のオーナーシェフからは、コーヒーや紅茶と並んで、料理にあった飲み物としてハーブティーに人気が集まっています。日本で普及しているハーブティーは、輸入したものが多く、収穫から時間が経った味が薄いものばかりで、なかには農薬使用の可能性も捨てきれません。
そこで私は本当の美味しいハーブを紹介することで、日本にハーブティー文化を根付かせたいと思っています。逆にいうとこれはビジネスチャンス。日本のハーブティー市場は、今がブルー・オーシャンです。私が旭川で育てた国産ハーブや、フランスから産地直送するハーブを使って、美味しさを追求したいと思います。
植物には「フィトケミカル」と言って、紫外線や有害物質、害虫から身を守るために作り出した色素や香りなどといった成分が含まれております。ハーブティーは、植物が持っているそれら抗酸化作用や代謝促進などの効能が期待される成分を丸ごといただける理想的な飲み物だと思っています。
同時に北海道産の精油、国産のアロマオイルの普及にも努めます。ハーブは昔から、人間に寄り添い、健康を支えてくれる存在であって、何も特別な植物ではありません。
ハーブの仕事と子育てを両立しながら、自分が楽しめることを通じて、人の健康のために役立てるのが私の生きがいなのです。
経営的には自社で栽培しているハーブや加工品の販売だけですが、売り上げは年々伸びており、法人化した2022年は前年の1.3倍にあたる2300万円を超えました。
就農当初は600坪程度の小さな畑でしたが、現在は元・蕎麦畑だった2ヘクタールほどの農地を借りて、生産規模を拡大しており、スタッフも増やしました。
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