【三国志の話】三国志大文化祭2023
当日(9/3)にnoteでつぶやいたように、今年はライブ配信がなく、リアル開催のみでした。
オンラインで視聴する手段があると、(特に地方在住の人は)助かると思いますね。
魏書、華佗伝より、五禽戯について
成澤正治(中国武術研究院 横浜武術院 代表)
成澤氏は1980年代より中国武術を始めて、2017年に日本で同団体を設立。
中国武術とも関わる健康法五禽戯の創始者が華佗であるとのことで登壇頂いたようだが、中国文化全般についてもかなり研究した人らしい。
毫州市について
華佗は曹操と同郷で、その出身地「豫州沛国譙県」は現在毫州(はくしゅう)市という地名になっているとのこと。
同地にある曹操の父曹嵩の墓碑には、「霊帝時代に倭人の使者が来た」と書いてあるらしい。
ん?
『後漢書』では、永初元(107)年に奴国が朝貢した記録の後は、桓帝・霊帝の間は倭国大乱で、卑弥呼が立てられるまで安定しなかったことになっている。
そしてその卑弥呼の使者は、『三国志』「魏志倭人伝」によれば景初二(238)年または三(239)年である。
つまり、少なくとも正史には記録されていないのではないか。
成澤氏は、陳舜臣の小説の中にある曹操時代の民間交流の様子や、中国南部(呉越地方)と日本列島(九州)が物理的に近いことを紹介。
つまり、公式記録にはなくても民間交流は盛んにあったに違いない、と考えているようでした。
(2024.6.2追記)
この話題の詳細がのちに判明したので、こちらの記事で説明しています。
老荘思想
続いて、同地が甲骨文字の時代から栄えた古都で、文化的に成熟していたという話に。
ここで唐突に老荘思想が出てきたように筆者には感じられたが、整理するとどうやらこういうことらしい。
荘子の出身地は蒙というところで、毫州市には近い。
華佗の五禽戯は近代の太極拳のルーツの一つで、太極拳は陰陽五行説の影響が強いから、老荘思想や道教と関係があっても不思議ではない。
実際、『荘子』の中には健康法に関する記述があるとのこと。
導引術
『荘子』の中の健康法はつまり呼吸法であり、それは導引術と呼ばれている。
日本にも伝わっていて、あの貝原益軒の『養生訓』にも出てくるそうです。
現代中国では気功と呼ばれるが、そのルーツであるとのこと。
氏はこの呼吸法のおかげでコロナとは無縁だったとのことで、実際に舞台で実演して下さった。
脇腹や丹田に手をあてるとか、腕を伸ばして呼吸するとか、いろいろとコツがあるものの、基本的には口ではなく鼻で呼吸することが重要らしい。
ウィルスは口から入るから、そもそも口呼吸をしなければ感染しにくい。
それでも入ってきた雑菌を咳やクシャミとして体外に出したり、さらには余計な塩分や油分を痰として口から出すことが重要なのだそうです。
五禽戯
導引術の一種で、「虎」「鹿」「熊」「猿」「鳥」の動きをまねて行なうものを華佗が考案したということです。
ドラマ「軍師司馬懿」(司馬懿軍師連盟のことか?)の中に五禽戯が出てくるとのことで、会場に動画が流れます。
同時に、いくつかの動きを舞台上で実演して下さいました。
さらに、漢方薬として動物のパワーを摂取することの効用など、東洋医学の優位性の話に。
そして、健身気功関連のテキストや関連団体などを紹介して、終わりとなりました。
筆者の感想
成澤氏は職業柄、太極拳や気功などの健康法から、その背景にある東洋医学、陰陽五行説などの中国文化の広範囲に造詣が深いようでした。
それらの知識を近現代の中国と交流して学んできた経験から、現代中国(中華人民共和国)のことが大好きな感じが伝わってきました。
それに対して、少なくとも筆者は現代中国にはほとんど興味がない。
「三国志に興味がある人は、現代中国にも興味があるのか---」
これは人によって分かれると思うので、割合を調査したら面白いように感じました。
早大月旦評
早稲田大学三国志研究会
現役の早大生五名によるトークショーか?
まずは参加者の自己紹介から。
会計Sさん
好きな作品:吉川三国志、コーエー(特に三国志11)、蒼天航路、正史
好きな人物:皇甫嵩、董卓、馬超(など、涼州軍閥)
部長Fさん
好きな作品:レッドクリフ、渡辺仙州
好きな人物:諸葛亮、趙雲
2年Tさん
好きな作品:吉川三国志
好きな人物:陸遜、陸抗
2年Yさん
好きな作品:北方三国志
好きな人物:公孫度、公孫淵(など、遼東政権)
1年Tさん
好きな作品:あすなろ文庫の三国志
好きな人物:特になし
月旦評
今年は没後ちょうど1800年ということで、劉備をピックアップしたとのこと。
まずは黄巾の乱から反董卓連合までのおさらい。
『演義』だと公孫瓚の配下として戦っているが、正史だと地方官を転々としている。
平原国は青州なので、青州黄巾と戦っていたのでは?との話題になる。
(筆者感想)青州黄巾は公孫瓚・公孫範と戦って敗れているので、確かに劉備が(公孫瓚配下の武将として)戦っていた可能性はあると思う。
ただ、それよりも筆者は、劉備が袁紹派の青州刺史臧洪と戦ったかどうかに興味があります。臧洪(字は子源)はなかなかの人物なので。
北方三国志
ここで、北方三国志の話になりました。
北方三国志には、創作が多いことが知られています。
例えば貂蝉が出てこない代わりに、呂布には年上の妻がいていい味を出している。
そして劉備は、漢王室の復興を目指していない。北方ファンの間では曹操の人気が高く、孔明や孫権の人気は低い。などと、トークが続きます。
(筆者感想)孫権が不評なのは「優柔不断で、陸遜を退けるところ」とのことだが、それは他の作品でも同じような気が。
さらに、「勝てる実力があるのに天下を目指さないところ」は、お兄さんの遺言をよく守ったためなのでは?(笑)
ソンケン
ここで、「ソンケン」という同音の人物(「孫乾」「孫堅」「孫権」)をどう区別するかという話題に。
どうやら同サークルでは「孫乾=乾いたソンケン」「孫堅=堅いソンケン」「孫権=柔らかい(つまり堅い方じゃない)ソンケン」と呼ぶらしい。
筆者の場合は、昔は「孫乾=ソンカン」「孫堅=ソンケン父」「孫権=ソンケン息子」などと呼んでいた記憶がある。
しかし最近、もっとスマートな呼び方、「字(あざな)で呼ぶ」を普及させたいと思っているので、ここで挙手して提案してみました。
すると、「孫堅=孫文台」「孫権=孫仲謀」はいいのだが、「孫乾の字って?」となります(そりゃそうだ)。
ここで客席にいた龍谷大学の竹内先生から、即座に「公祐(こうゆう)」と声が飛んだのは、さすがでした!
まとめ?
後半生の話になって、劉備は逃げているときが輝くという話になりました。
ちなみに、コーエーの三国志14では、劉備に「脱兎」という特性がついているとのこと。
そしてまとめとしては、劉備は「主人公ではあるが負けたり逃げたりするところが特徴」で、「人間らしさが魅力である」ということに。
ここで、一つ前の登壇者の成澤氏の手元にマイクが渡って、面白い話が聞けました。
元の時代、蒙古軍が東北部から、かつて曹操が切り開いた交易ルートを通って攻めてきた。
だから『演義』では曹操が悪者になり、曹操に立ち向かった劉備が主人公になったのだと。
なるほど、ありうる話です。
最後に同サークルを代表して、Sさんの一言。
「三国志の話をして、客席からの反応があるところが面白かった」
筆者の感想
筆者が二十歳くらいのときは、ただ『三国志演義』のいくつかの作品(NHK人形劇、吉川三国志、横山三国志、コーエー、、、)を漫然と消化していただけで、誰かに焦点を当てて語れたかどうか、自信がありません。
それに対して現役の早大生のみなさんは、『演義』ベースでない作品までいろいろ読み込み、客観的にそれぞれの作風やら背景やらを理解していました。
日本の未来は明るいぞ!?
柿沼先生の講評
成澤氏の話
学術的な裏取りという点で今後に期待できる話であった。
今中国はバブルなのでビルを建設する途中で、墓やら木簡竹簡がいっぱい出ている。
戦国末の医学の処方箋が大量に出てきたりしているが、今後、華佗が麻酔をしたことが証明されるのか、興味深い。
早大三国志研究会
自分も三国志オタクからスタートしたので、共感できる。
自分は劉備嫌いと誤解されているが、本当はそうではない。法律とかを読んでいて、天下人のことは興味なかっただけである。
調べてみると、劉備に限らず英雄はみんないいかげんで、諸葛亮の給料すらまともな額を支払っていない。なのでよく誰が好きかを訊かれるが、そもそも三国時代を生きたくない(笑)
余談:時代が下って朱元璋時代の四川地方の科挙の問題には「諸葛孔明をどう思うか?」というものがある。いずれ「科挙の赤本」を出したいと思う。
参考:昨年の記事はこちら。