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ポスト・コロナ時代の新世代フュージョン 

これは事件です!

まさか、世界最先端のフュージョン音源が、この日本国内で、しかも国内盤として正式リリースすることになるとは夢にも思っていませんでした。その作品とは…

Jack Gardiner & Owane "Of the Quantum Multiverse"

この記事では、ポスト・コロナ時代に彗星の如く現れた、このスーパー・ユニットのデビュー作について書いていきたいと思います!


Jack Gardiner & Owaneってだれ?

まず、今作の主人公であるJack GardinerとOwaneという人物について、簡単に紹介したいと思います。

Jack Gardiner
Owane

写真を見るとお分かりいただけるように、彼らはどちらもギタリストです。このアルバムは両氏のツインギターが炸裂する、インストゥルメンタル(歌なし)の作品となっています。

Jack Gardinerは、1993年イギリス生まれのギタリストで、現在はbanezとエンドースを結んでいます。2020年にEP "Escapades"をリリースしています。YouTubeでは、フル版を聴くことができます。

Owane(Øyvind 'Owane' Pedersen)は、ノルウェー出身のギタリスト・マルチインストゥルメンタルプレーヤーで、Strandburgのヘッドレス・ギターを使用することが多いです。2015年に初のEP "Greatest Hits"、2016年にはEP "Dunno"、2017年にはアルバム "Yeah Whatever"、2021年にはEP "Yolo EP Vol.1"を発表しており、コンスタントに作品をリリースし続けています。これらの作品は全てYouTube上に無料で公開されています。

Jack GardinerとOwaneの音楽性って?

さて、そんなギタリスト2人によるオール・インストゥルメンタルの作品である本作ですが、なぜ筆者が「ポスト・コロナ時代の〜」などと、大きな主語をつけて語るほどの凄さを感じているかを書こうと思います。

演奏

まずは、やはり彼らの凄まじい演奏技術です。Jack Gardinerは、1世代上のテク系フュージョンギタリスト、Tom Quyleに影響を受けていることからも察しますが、正確無比なピッキング流麗なレガート・縦横無尽に指板を使い尽くす豊かなフレーズ…そのプレイスタイルからは、Tom Quyleの影響を随所に感じます。例えば、Tom Quyleの十八番であるChick Coreaの"Spain"のバッキングトラックを使用した演奏動画があります。

さらに、彼はフュージョンギターに特化した動画や教則ビデオをたくさん出しており、まさに現代フュージョン・ギターの到達点を示している人物であると言っても過言ではないと思います。例えば、以下の2本の動画をご覧ください(もちろん、拙稿のフュージョン・ギタリスト特集でも触れた、あのJam Track Centralからのリリースです)。

特に1本目の動画をご覧いただくと分かりますが、たった数十秒の中に

Brett Garsedなどの超絶ギタリストたちが多用する「ハイブリッド・ピッキング」(ピッキングとフィンガー・ピッキングを組み合わせることで、離れた弦も楽に弾くことができ、縦横無尽でカラフルなラインを作り出す)
・速弾きギタリストの十八番テク「スウィープ・ピッキング」(一方向に連続的に弦をピッキングする)
Frank Gambaleが生み出した高速ピッキングである「エコノミー・ピッキング」(通常の上下交互にひくオルタネイト・ピッキングとスウィープ・ピッキングを組み合わせる)

こんなにもたくさんの演奏テクニックを見ることができます。もちろん、彼の速弾きも正確無比で、次の動画の冒頭は、まさにGuthrie Govanの名曲"Fives"のギターソロを彷彿とさせますね!

一方のOwaneは、ローゲイン(歪みが少ない)のサウンドでありながら、こちらも正確無比なピッキングや、何よりもローゲインだからこそ出せる微妙なピッキングやフィンガリングニュアンスの出し方が段違いで上手いのです。

個人的には彼の曲の中では、この時期にぴったりのタイトルですが、"Summer Jam"というチューンが群を抜いて衝撃的でした。特に28秒から始まるリフを聴いていただきたい!

まるでフランメンコギターを弾いているかのように、小気味の良いサウンドで、さらに軽々とウラにきる複雑なキメをこなしています。時々使っている、半音違いの二音をバッティングさせるアイデアは、以前特集したAllan Holdsworthを彷彿とさせます。

ちなみに、彼の楽曲の動画でもっとも再生回数が回っているのが、以下の"Rock is Too Heavy"です。

やはり、近年のプログレの影響下にあるフュージョンの流れにあるためか、複雑なリズムとキメが印象的です。もちろん、流麗なレガードやメロディアスなフレーズたちは健在です!

サウンド

両者の作品を聴いていくと、サウンド面である共通した特徴が見えてくると思います。それは、ローゲイン(歪みが少ない)のギターサウンドという点です。これは、Chon, CovetPolyphiaといった近年の若手マスロック・テク系インストバンドによく見られるようなサウンドの特徴となっています。

ぜひ以下の動画をご覧ください。とても似たような音作りになっていると感じられると思います!

Jack Gardinerは、典型的なロックギターの音作りをしながらも、通常のロックよりもゲインを下げています。基本的にはゲインを上げれば上げるほど、ギターの音が潰れていくぶん、細かいミスは目立たなくなります。そのため、このローゲインでミスが全くない彼の演奏技術の凄さがここでも感じられるわけです。

Owaneに関しては、Jack Gardinerと比較してもさらにローゲインである曲もあり、彼よりも歪みの粒が細かくなっている印象を受けます。クリーンともクランチとも取れないような独特のスムースな音を作り上げています。自分には絶対に再現ができないです…

「プログレ・フュージェント(fu-djent)」として、Jack & Owaneを解釈する

ここからは、上述のサウンドをさらに深掘りして、Jack & Owaneに新たな解釈を与えてみたいと思います。

お聞きいただくとわかるように、彼らのサウンド、特にOwaneが主体となる楽曲では、シンセサイザーなどを活用するなどによって、低音のビートをしっかり出しているところも特徴かと思います。このようなジャンルを、筆者は「フュージェント(fu-djent)」という言葉を使って表しています。

フュージェント(fu-djent)とは、フュージョンジェント(djent)という音楽ジャンルの融合を表した造語です。ジェントとは、メタルの下位分類の1つで、強く歪ませた7弦や8弦ギターの低音弦を使ったキレッキレのリフを特徴とするものです。代表的なバンドというと、やはりスウェーデンのバンド、Meshuggahが挙げられます

そのほかにも、1世代くらい下にはAnimal as Leadersもいますね!

Jack & Owaneでも、ここまでとはいかなくとも、7弦ギターを活用して低音主体のリフを基調にした曲があります。以下のイントロのリフをお聞きください。

まさに、ジェントが言わんとしているような特徴のある低音リフだと思います。中身はザ・フュージョンなのですが、一筋縄にはいかない要素が散りばめられていると感じます。

また、筆者はタイトルに「プログレ」という言葉を加えたのは、現代的なフュージョンらしく、随所に複雑なキメやフレーズが散りばめられているためです。この点を語る上では、Arch EchoPliniは外せないでしょう!

Arch Echoは、プログレ、メタル、そしてフュージョン(時々Djent)の交差点にいるバンドで、比較対象として外せません。彼らは、あのDream Theaterの結成メンバーの出身校として名高いバークリー音大出身のメンバーが作ったバンドということもあり、極めて高い演奏技術と作曲能力を持ち合わせています。

こちらのほうが全体的なサウンドはヘヴィーでテンポも早く、メタルという要素が強いかと思います。しかし、Dream Theater meets Return to Foreverと形容されるように、ヘヴィネスの中にもメロウさや爽快感といったフュージョン的な要素を兼ね備えているという点では、Jack & Owaneと共通している点であると思います。

そして、こちらはオーストラリア出身のギタリスト、Pliniです。こちらは、Arch Echoよりもメタルに寄っていますが、フュージョンっぽさ、そしてジェント的なキレキレのリフが特徴的です。そして、1曲目のElectric Sunriseなどで随所に聴かれる変拍子、まさにプログレという印象で、こちらもJack & Owaneと共通している点が多くあると思います。

したがって、筆者はJack & Owaneという作品は、フュージョンを基礎としていることは言うまでもありませんが、その中にジェント的な要素を持っていたり、Arch Echoのようなプログレ・フュージョンっぽさを持っていたりしていて、学問研究でいう「学際的」、つまりジャンル横断的な全く新しいジャンルを開拓していると言っても過言ではないと思うのです。

このような新しいフュージョンに対する解釈については、以前の記事でも書いておりますので、参考までに載せておきます。

楽曲解説

さて、ここまで大まかにJack & Owaneの本作の特徴などを見てきましたが、最後に収録曲の中でも特に注目したい曲を3曲ピックアップして聴きどころなどを解説してみたいと思います!

M1 "Action Boyz"

この曲は本アルバムの最初を飾る曲です。小気味の良いエンジンのスタート音から始まります(エンジン音は2拍分なので、綺麗に楽曲に合流できます)。

聴きどころとしては、それぞれがリードギターを取りながらメロディーを奏でる、そのインタラクションに尽きると思います。とても官能的な部分もあり、メロウな部分もあり、刺激的な速弾きから流麗なレガートまで、ポップでキャッチーな楽曲の中に、多くの要素が入り混じっています。

なお、このミュージックビデオはかなりジョーク混じりに制作されている部分もあるので、ふざけポイントなどにも注目すると面白いかもしれません。

M9. U.T.F.F. (featuring Henrik Linder)

もっとも注目すべきは、なんと言ってもスウェーデンの超絶ポップバンド、Dirty LoopsHenrik Linderがベースを弾いているということでしょう!ご存知ない方は、ぜひ下の動画をご覧ください。

6弦ベースを縦横無尽に自由に操り、スラップから指弾きまで、極めて多彩なフレーズを生み出す超人ベーシストです。特に、彼のスラップのうまさは尋常ではないです。筆者も去年、来日したDirty Loopsを生で観てきましたが、あまりの超絶技巧ぶりにひっくり返りそうでした。生で聴いてもこのサウンドが「そのまま」聞こえてくるのです。

本題に戻ると、この曲でもHenrik Linderの超絶スラップや、指弾きのベースソロを聴くことができます。やはり、世界的に評価されるベーシストがベースを弾くと、ここまで楽曲が豊かに聞こえるのかと驚きます。

もちろん、Jack Gardinerを中心としたギターも文句なしでかっこいいですね!Owaneはマルチインストゥルメンタル奏者として、本曲ではキーボードをかなり弾いていますね。そのピアノサウンドのおかげか、アップテンポでテクニカルな雰囲気をいい感じに中和し、柔らかい印象も抱きます。

M14. Shred is Dead (Live at Budokan)

ツッコミどころ満載の楽曲ですね笑

まずタイトル。"Shred is Dead"とは、おそらく「速弾きは死んだ」ということだと思いますが、心なしかこの曲ではほとんど速弾きが使われていないのです。タイトル通りということなのでしょうか笑

そして(Live at Budokan)という括弧書き。Budokanとは日本武道館のことですが、この曲が日本武道館でのライブな訳はなく…
Live at Budokanというと、Dream Theater、Eric Clapton、Judas Priest、Ozzy Osbourne、The Beatles、Yngwie Malmsteenなど、名だたるアーティストたちが記録を残してきたタイトルです。それを記念に冠したかったのでしょうか?一応、歓声らしきものは入っていますが、詳しい理由は何もわからず…遊び心なのでしょう笑

楽曲としては、前半はかなりクラシックな1970年代〜1980年代のフュージョンのような、ファンキーなリフが主体となっていて、アルバムの最後の曲ですが、全体を通しても割と特徴的な曲であるとも言えそうです。後半に行くにつれて、どんどんJack & Owane感が増していき、高度なテクニックを使用している部分も多々見られるようになります。


さて、そういうわけで、今回はコロナ後に誕生したスーパー・フュージョンユニット、Jack Gardiner & Owaneを特集しました。日本でのリリースがあること自体が奇跡に近いと思うのですが、それだけ世界中のみならず、日本でも先見性のあるリスナーたちの期待があるということなのでしょう!!

さらに!!!

実は先ほど紹介したArch Echoとともに、Jack Gardiner & Owaneが来日するのです!!!

あくまでArch Echoの前座としての来日のようなのですが、彼らが前座とはもったいない…せっかくならフルで公演を行ってくれてもいいのに、と思ったりもします。筆者はもちろんすでにチケットは確保済みです!今回は課金してVIPチケットを取ったので、Arch Echoには会えるのですが、運が良ければJack & Owaneにも会えるかもしれません。来月の来日公演に期待大です!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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