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研究者である私が「基礎研究」を好きな理由

はじめに

私は、博士号を取得した理系の研究者です。
普段は日本の大学で、助教としてはたらいています。

私は研究者として、個人的に『基礎研究』が大好きです。
もちろん研究者のなかにも応用研究が好きな研究者の方も多くいらっしゃいます。
ただ、私の場合は応用研究か基礎研究のどちらが好きか?と尋ねられると、絶対に『基礎研究』だと即答します。

この理由は後に述べますが、私が大学の研究者という立場であることも関係します。

ただ、例えば自分が研究をはじめる前に、「基礎研究」か「応用研究」どっちがやってみたいか?と思っていたかというと、それは「応用研究」でした。

何に役立つかわからないと研究のモチベーションが沸かない
世の中に役立つ研究がしたい、ということを指導教員の先生に研究テーマ決めのときに話したのを今でも覚えています。

また、工学部と理学部の違い
「自然界の真理を追究するのが理学部」
「知識を応用して実際に役立つものづくりを目指すのが工学部」
のようなものを聞いたとき、私がどちらに魅了を感じたのかは言うまでもありません。

つまり私は、研究を始めてから『基礎研究』が大好きになりました。


ここでは、なぜ私が基礎研究が好きなのかについてまとめたいと思います。


基礎研究が好きな理由

(1)アカデミック(大学や研究所)でこそできる研究だから

基礎研究は大学や研究所でこそできる研究だと思います。
民間企業のように利益を常に追求しなければならない場所では、短期的に利益が見込めないタイプの研究を継続的に行うことは困難です。

ここで注意してほしいのは、基礎研究は世の中の全く役に立たないものではありません。ただ、ほとんどが実際に人の役に立つためには2,30年が必要になるものです。

したがって、応用研究を行うことは企業でも可能となる場合が多いですが、基礎研究となるとアカデミックが中心となります。

なので、純粋に棲み分けとして、大学の研究者である私は、大学の研究者であるからこそ「基礎研究」を大事にしていく必要があると感じています。


(2)いち研究者として、ハイインパクトジャーナルを目指したい

みなさんは、Cell(セル), Nature(ネイチャー), Science(サイエンス)という学術誌の名前を聞いたことはありますでしょうか?
これらは世界のトップジャーナルです。

学術誌にはランクがあり、これらは主にジャーナル(学術雑誌)の影響度を評価する指標であるインパクトファクターIFの値で知ることができます。

つまり、インパクターファクターの値が大きい学術雑誌ほど、
特に優れた研究成果しか掲載されないトップレベルのジャーナルということです。

だれもがこのような雑誌に投稿できるわけではありません。むしろこの世の研究者のほとんどが、Cell(セル), Nature(ネイチャー), Science(サイエンス)で論文を発表したことがありません。

私は研究者として、このようなトップジャーナルに成果を発表できるような素晴らしい研究がしたいと考えています。

そしてこのようなトップジャーナルに論文を掲載したいのあれば、『基礎研究』を行うことが重要だと感じています。
もちろん応用研究でも、圧倒的な成果がだすことができればこのような雑誌に論文を掲載できると思います。

ただ、応用研究で圧倒的な成果がでるかどうかは、完全に運の要素が大きくなります。(例えば、圧倒的な性能がでる材料を発見するなど)

一方で、『基礎研究』であれば、真理を追究していく研究になりますので、いままでの研究の知見の積み重ねが重要になります。よって、基礎研究で世界を出すためには、単純な運の要素は応用研究よりも薄くなり、確実に実力のベースが必要になります。

(3)基礎研究はこれからの応用研究に広く役立つ

基礎研究の成果は、応用研究を行うための基盤的な知見になります。
基礎研究の成果は本当に役に立つまでには時間がかかるものかもしれません。

しかし、これから先も長くどこかで役に立つ重要な知見です
その基礎研究が周辺分野の基礎的理解、ひいては技術の進展の一端を常に担い続けます。

一方で、応用研究の成果は、別の研究に生かせない場合があります

たとえば、『鮮やかな緑色をもつ軽量の上着』を開発するための研究があったとします。この開発のために基礎研究で得られた知見を基に、応用研究を行います。

ただ、このとき、『鮮やかな緑色をもつ軽量の上着』の開発の過程で得られた応用研究の知見は、『鮮やかな緑色をもつ軽量の上着』の開発でしか生かせないものが多くなる可能性が高いということです。

『暗い青色をもつ軽量の上着』や『鮮やかな緑色をもつ重厚な上着』の開発のためには、全く違うタイプの応用研究をいちから行わなければいけません。

私としては、応用寄りの研究をすると前回の研究で得た知識を別の研究に活かしづらい、あるいは学会で聞く応用研究の成果が自分の研究に活かしづらいというところが、研究者としてかなり歯がゆく感じます。



では、基礎研究が軽んじられる理由は?

①専門の研究者以外に価値が評価しづらい
②実際にその成果が社会に還元され、利益が出るまでに時間がかかる
③そもそも成果が出にくい
ということだと思います。

政府も『企業をサポートしたい』という姿勢が強いように思います。

現実として、日本で大型予算が付くような研究テーマは応用寄りのものがほとんどです。どのように役に立つのかが国民に説明できない研究は、税金から支出しづらいのかもしれません。

イギリスの同僚に、
「イギリスはこんなに基礎研究にお金がつくなんてすごい」
という趣旨のことを言ったことがあります。
そのとき、その同僚には
「イギリスはすでに〇〇の分野で、日本やアメリカに遅れをとってるからね。日本と同じことをしてても仕方ないんだよ。日本企業がうまくいってるからこそ、応用研究に力がそそがれてるんじゃない?」
と言われました。

一理あるのかもしれません。


さいごに

論文は質か量かと問われたとき、両方大事と答える研究者がほとんどだと思います。
私もよくまわり同年代の研究者にこれを訪ねるのですが、皆両方と答えます。

ただ私は、絶対に質が重要だと言われて育ちました。

最初は博士号の学位を取得することが目的だったので、ハイインパクトをもつ学術雑誌に論文を出したくありませんでした。
これは、論文が実際に受理されるまでかなり時間がかかるだろうし、険しい道を進まなければならないことが予想されるからです。

ただ、今ではこういう学術雑誌に質の高い論文を投稿する研究者になりたいと思っています。

そのために、大学の研究者として基礎研究を頑張りたいです。

私が思うことは、ネイチャー、サイエンスなどのハイインパクトジャーナルを本気で目指して投稿したことをある人だけが、このジャーナルの難しさと本当の価値を知っているということです。

論文の数ももちろん重要ですし、数というのは本当にわかりやすい指標です。

しかし私は、本当に質の高い論文を投稿することのほうが難しいですし、これこそ研究者として評価されるべき内容だと考えています。

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