セルゲル法(DiscoGel®)
※当院では、患者様の安全と効果的な治療を最優先に考え、DiscoGel®を用いた治療は現在行なっておりません。
セルゲル法とは
セルゲル法は、DiscoGel®(ディスコゲル)と呼ばれる物質を椎間板に投与する治療法です。ディスコゲルの成分はエチルアルコール(エタノール)、セルロース(ティッシュペーパーなどのパルプ繊維)、およびタングステン(重金属)で構成されています。
エチルアルコールは組織を化学的に融解させる作用があり、椎間板に投与することで髄核を溶かすことができます。これにより髄核の容量が減少し、圧力が下がることで、椎間板内の減圧を図ることができます。ただし、エチルアルコールは神経損傷を引き起こす可能性があるため、椎間板の外に漏れ出ないように注意が必要です。そのため、エチルアルコールはセルロースに含ませて投与されます。同時に、タングステンを混ぜることでレントゲンで椎間板外に漏れ出ないことを確認することができます。
対象疾患
椎間板ヘルニア
治療条件
椎間板ヘルニアによる疼痛(腰痛、坐骨神経痛など)があり、4~6週間の保存的治療をしても改善がなく、椎間板の容量が2/3以上残っている場合に限ります。
効果
治療後3~6ヵ月で大きな効果が期待されます。
副作用
治療後1~2週間は症状が一時的に悪化する可能性があります。理由として、インプラントによる減圧効果により、周囲の組織をけん引する為と考えられています。また、局所麻酔薬によるアレルギー反応出現の可能性が極めてわずかですが存在します。
2021年には、医学誌「Neurocirugía」にて、セルゲル法(DiscoGel®・ディスコゲル)の治療後に下垂足の症状が出ることが報告されています。
絶対的禁忌
遊離した椎間板片
分節不安定性(すべり症)
神経孔または脊柱管の狭窄(脊柱管狭窄症)
無症候性の椎間板膨隆
未治療の感染症および椎間板炎
妊娠
相対的禁忌
出血性素因(手術前に矯正する必要がある)
抗凝固療法(手術前に中断する必要がある)
椎間板の高さが2/3以上減少した重度の椎間板変性疾患
同じレベルで椎間板手術の履歴がある
注意事項
未承認医薬品等
この治療で使用されるDiscoGel®は医薬品医療機器等法上の承認を得ていない未承認医療機器ですが、日本では医師の責任において使用することができます。
レーザー治療(PLDD)との治療成績比較
椎間板ヘルニアに対する減圧治療のレーザー治療(PLDD・経皮的レーザー椎間板減圧術)とセルゲル法(DiscoGel®・ディスコゲル)を比較して、治療成績に大きな差が見られない点が挙げられます。下記にエビデンスを示した学術論文を引用してご説明します。
学術雑誌Korean Journal of Pain
セルゲル法(DiscoGel®・ディスコゲル)とレーザー治療(PLDD・経皮的レーザー椎間板減圧術)の比較研究結果です。患者72名を無作為に抽出して痛みの評価(NRS)、腰痛障害の数値評価(ODI)、二次治療への進行事情を集めて分析を行いました。
全グループの治療前の平均NRSスコア(痛みの評価)は8.0でした。治療後12ヵ月の時点でDiscoGel®のグループのスコアが4.3、PLDDのグループのスコアが4.2まで減少したことが確認されました。
ODIスコア(腰痛障害の数値評価)も治療前平均の81.25%から大幅に下がり、DiscoGel®のグループは41.14%、PLDDのグループは52.86%と有意な変化が示されました。
以上のことから、PLDDもDiscoGel®も痛みの軽減において同等の治療効果が示されたと考えます。
よくある質問
DiscoGel®で椎間板の修復・再生はできますか?
できません。治療に使用する薬剤であるDiscoGel®(ディスコゲル)に修復や再生を促す成分は入っていません。むしろ髄核細胞を壊死させるため、障害を起こす可能性が高いと考えます。
椎間板が潰れてしまっているのですが、DiscoGel®で治療できますか?
できません。DiscoGel®(ディスコゲル)の主成分であるエチルアルコールは椎間板を融解(壊死)させることで減圧させます。したがって、椎間板ボリュームが正常時の2/3程度残っていない場合は治療することはできません。
脊柱管狭窄症と診断されてますが、DiscoGel®で治療できますか?
できません。DiscoGel®(ディスコゲル)の、対象疾患は椎間板ヘルニアのみです。脊柱管狭窄症やすべり症に施術することは禁忌です。
野中院長の解説動画
【椎間板ヘルニアの減圧治療】ディスコゲル治療の特徴を解説!
【椎間板ヘルニア治療方法の違い】ディスコゲル治療とレーザー治療を解説
【医師解説】ディスコゲル治療(セルゲル法)で椎間板は修復しません!
参考文献
Gelscom社(ディスコゲルの製造メーカー)の説明書http://www.discogel.com/doc/file/IfU_DISCOGEL%2015_10_2020.PDF
Asra Asgharzadeh, Naeimeh Khoshnood. Evaluating the Safety and Efficacy of Discogel in the Treatment of Herniated Lumbar Disc: A Systematic Review. Health Technology Assessment in Action, Vol 1, No 1 (2017)
https://www.researchgate.net/publication/331681040_Evaluating_the_Safety_and_Efficacy_of_Discogel_in_the_Treatment_of_Herniated_Lumbar_Disc_A_Systematic_ReviewSalvatore Masala, et al. Overview on Percutaneous Therapies of Disc Diseases. Medicina (Kaunas). 2019 Aug; 55(8)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6722686/Effectiveness of intradiscal injection of radiopaque gelified ethanol (DiscoGel®) versus percutaneous laser disc decompression in patients with chronic radicular low back pain,Korean J Pain. 2020 Jan; 33(1): 66–72.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6944373/Foot drop after percutaneous treatment with radiopaque gelified ethanol (Discogel®)Pie caído posterior al tratamiento percutáneo con etanol gelificado radiopaco (Discogel®)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1130147320300361