Depressive Silence - Ⅲ Mourning
Depressive SilenceはドイツのRALとB.S.なる人物から1994年に結成されたダンジョンシンセ・プロジェクトによる3枚目の作品。(オリジナル盤は"Ⅱ"というタイトルが使われている為、当時は2枚目という扱いだったのかもしれない)
私が所持しているのはリマスター盤(2024年)といわれているものなのだが、おそらくはリマスターではなく、再レコーディングされていると思われる。彼らの作品はEPのみでアルバムとしてリリースしているものはないのだが、その中でもカルト的に名盤とされているのがこの今作だ。(サブスクで聴けるのも何故かこれだけ)
ダンジョンシンセ……かなりニッチなジャンルではあるがじわじわと知名度をあげているマニアには知る人ぞ知る音楽ジャンルで、雰囲気や思想はブラック・メタルやペイガン/フォーク/ヴァイキング・メタルに近いのだが、あくまでもそれはほぼ視覚的な要素のみで中世を思わせるファンタジーものがベースとなっている。アートワークはモノクロを基調として霧がかかった古城や森、自然をテーマにしたものが多くアーティスト自身もローブに身を包みフードを被って素顔を隠していたりするのも特徴のひとつだ。
実際の音楽はチープなキーボード・サウンドや環境音がメインでまさにRPG(ロール・プレイング・ゲーム)で流れている暗い洞窟を歩き続けているかのようなダンジョンでのBGMをそのまま表現したかのような音楽になっている。
このジャンルの先駆者といわれているのはBURZUM、Jim Karkwood、Mortiisとされていて、当時はまだダンジョンシンセとは呼ばれておらず後にMortiisによるレーベルDark Dungeon Musicにちなんで名付けられたとされている。
一部のブラック・メタルファンだけではなくRPGを好む人々にもアピールした新しいスタイルは今やダーク・アンビエントと一括りにするのには狭く、独立した音楽ジャンルとして知れ渡ってきた。
そしてこのDepressive Silenceもダンジョンシンセの中枢を担うアーティストのひとつである。
#01 Forest of Eternityはおそらく彼らで一番有名な楽曲のひとつでまさに永遠に続く神聖な森の中を彷徨い続けているかのような一曲。ドラム…ではなくおそらくティンパニで段々と盛り上がりを見せてくる展開はただのダーク・アンビエントでは終わらないのも特徴的だ。
作品によってはブラック・メタルで聴けるよう唸るようなヴォーカルが入っていたりするが、本作ではほぼ全編インストで比較的聴きやすい。
このジャンルはソロで活動しているアーティストが殆どでライブには消極的なイメージなのだが、彼らは割と精力的でファンが撮影した最近のライブ映像もいくつか残っており、ライブではおそらくサポートと思われるメンバーを加えたバンドセットでキーボードやティンパニの他、語りのようなヴォーカルも入れていたりライブ・アレンジも多彩であくまでもアンビエント・ミュージックがベースになっているはずなのにファンが拳を突き上げる姿がちらほらと見られ独特な盛り上がり方をしているのもなかなか興味深く面白い。
垣根こそ違うが、個人的にはクラブ・ミュージック界隈から出現したヴェイパーウェイヴやハイパーポップのように音楽好きには刺さるカルト的ブームになりそうな気配するジャンルだと思っている。
激しい音楽に少し疲れてしまったメタラーからアンビエント、ゲーム音楽好きまで幅広い層へオススメできるので是非寝る前のお供に聴いてみていただきたい。