【400字小説】平均的な天才
「切腹してお詫びしますっ」と
営業成績優秀の生原が
課長のデスクの前で土下座。
まさか本当に脇差を持っているなんて
思いもしなかったから、初動が遅れた。
それと併せて野次馬な心も出たのは正直なところ。
「まさか刺さないだろ」とも高を括っていた。
刺した瞬間のリアクションは
人間としては正直なそれだったと感じる。
俺も含めたオフィスの誰一人、
身動きできなかったのが、その証拠。
2・0秒してやっと俺は生原の行動を止めに行った。
生原は本気だったから、
信じられない力で脇差を握っていた。
力尽くで奪うには骨がいった。
三人がかりでやっと刀を取り上げる。
興奮してわからなかったが、
じんじんと痛むので見たら、
俺の右手の小指が、
切り落とされてしまいそうだった。
猛烈な痛み、俺は気を失う。
だからこそ、自らの腹を刺した
生原の覚悟の凄さを知った。
生原も首の皮一枚で生き残ったが、
ニュースにもならなかった。
俺の指もきれいに元に戻った。
凡人で良かった。
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