【血の粥】荒野にひっそり来たのは(19)
それはジャだった。エコーを密かに想っていた。お互いに好意を寄せていることを知らないまま。知らなかったのだから、誰もせつなくもならない。ジャはいつか《祈願祭》か《祝祭》で告白し、結ばれたいと願っていた。そして、無限の愛情を捧げるつもりだった。なのに、もう会うことすらできなくなってしまった。突然すぎたから、自暴自棄になっている。呪われた樹の実を食べて死んでしまおうと考えていた。もしバケモノになるなら、人間の記憶はなくなるはずだから、そうなって構わないと自分を見捨てた。ムラを全滅させたい、そんな気持ちまであった。呪われた樹を前にして、身震いする怖さと、武者震いする高揚感を味わっている。青い実を食べることは終わりを意味したが、それゆえに始まり。「はじまりがすべてなら、脳が痺れを欲してる」と口をついて言葉が出た、気が付いたら呟いていた。意味はよくわからない。でも、何かを成すために必要な呪文だと直感した。
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