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ファウル・トラブル【400字小説】

万年金欠だっていうのに、モトエはMILLETのリュックが盲目的にずっと欲しくなって。好きだったユキチが持っていたから。彼は3ヶ月前に駅のホームから転落して亡くなった。ユキチには好きな人がいて、恋愛相談に乗ることもあった。それは辛かった。郊外の大きなスポーツ用品店や駅前のアウトドア店で、MILLETのリュックを探したが、ない。ユキチと同じモデルのを。日を改めても、見つからない。メルカリで同じのがあったけれど、ユキチではない誰かのモノならば、新品の方がまだ気持ちが良いからモトエは買わないでいる。ユキチが事故当時持っていたそれは血みどろになって家族のもとへ返された。泣き崩れた家族の姿を見ていないけれど、それを想像するのは、落ちた線路上からホームに戻るよりは容易なことだった。モトエは4回、事故のあった駅まで足を運んだが、ホームへは結局、行けていない。それを乗り越えれば、MILLETのリュックの呪縛は解けるのかも。

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