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【血の粥】残酷な光景がトラウマに(28)

犯行者がおぞましく思うのだから、残された被害者のその家族への影響は計り知れない。本来は、猟で殺したばかりの動物、貯蔵した乾燥果実、土そのものの匂いが家屋に充満しているが、犯行後は、人間の血のムアッとした臭いが鼻の穴の表面にこびりついて離れない。怪物、すなわちエコーは、家族を全滅させるようなことはせず、あえて一人だけをターゲットとして狙い殺した。それは見せしめなのか、やさしさなのか。現場を見た者は嘔吐し、その残酷な光景がトラウマになった。気が狂う者も当然、少なくなく、一〇歳にも満たない少女が、父の犯された遺体を見て、自ら命を落とすに至るなど、悲劇が続いた。悪魔の諸行に忌々しさと恐怖と無常を突き付けられてもムラ民はなす術がなかった。ムラ長はじっと構えて、いつまでも目をつむって頑なに黙り続けた。やっと口を開いたのは事件発生から九日間経ってからで、「コバートを呼んできなさい」と言ったきり、また黙った。

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