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ヨツウチ【400字小説】

カーステレオからケミカルブラザーズ。
兄によれば最新アルバムらしい。
「この人たち、20年前と変わらないね」と私は。
「いい意味で?」と兄が聞き返すから、正直に「悪い意味だよ」と。
そして続ける。

「最近、レディオヘッド聴いてるンだけど、あの人たちは《シンカ》してる。
前に進む意味でも、深く潜る意味でもね」

高速道路はずっとまっすぐに単調で、時速100キロでぶっ飛ばしているのに、どこかスローモーションで。
兄はハンドルをしっかり握ったまま、反論というか、真逆の意見を。

「俺が思うに、ケミカルブラザーズって、あえて同じことやってるんじゃないかなあ。
お母さんの味噌汁、具沢山じゃなくなったら、お母さんのじゃないと思うんだよね」

私はちょっとだけ、でも妙に納得。
母のカレーも、コロッケも、ミートソーススパゲティも、味や盛り付けが変わるんなら、それは残念だ。

兄は「俺が古い人間なのかな」と呟いて、ダサい四つ打ちのビートに肩を揺らした。

❏❏❏

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