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スイッチ【400字小説】

「相談があるの」ってメイに言われて、今夜今夜。電話越しに「今、好きな人がいて」という展開は、まあよくある話だなって、ケイは他人事みたいに受け止めた。傷ついたけれど、大事な人の悩みだから他人事ではない。電話で良かった、素顔で相対していたら動揺するのを隠せなかったはず。「でもね、その人、浮気もしてるんだよ」と悲しそうに言った、電話電話。「それもよくある話だね」とは言えなかった、笑えないから。「それでも、好きなんでしょ、メイちゃんは。自分の気持ちに素直になりなよ」とは言えた。そうなって見事に傷つくか、フラれるかして、恋心の相手を入れ替えられたらって、魂胆魂胆。
「バカな女でゴメンね」
「そんなことないよ。恋をするって素晴らしいことだよ」
「ケイはやさしいね。恋人がうらやましいよ」
「やさしくなんかないし。だから恋人もいないんだよ」
「じゃあ、わたしと付き合う?」
思わぬ言葉が転がってきてケイは、沈黙沈黙。

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