【血の粥】左手に石斧(53)
コバートは川縁で嗚咽していた。嘔吐していて、血の粥で清流をさりげなく汚した。透明の川面には重たい雲。石を石で叩く音がする、遠くの方から。清流で口を濯ぎ、音のする方を見た。延々と続く砂利の川辺。肉眼でぎりぎり見えるほどの遠く距離で、誰かが石斧を振り上げている。動きから石割りをしていることに気がつく。耳に響く甲高い石の音。それが鳴る度に空が光った。コバートは自分の雷を落とす能力を思い出す。「なぜエコーの生き霊やジャの化身に雷を落とせなかったのか」と悔いる。しかし、右腕がないことにすぐに気づいて落胆する。現実ではないことを祈った。切実に願った。でも、呆気なくそこが死後の世界の入り口だとわかって大笑い。大爆笑していると、石割りをしていた何者かが文字取り空中を飛んでやって来て、「ぐずぐずするな」と言った。「生きるために血を吸え」と続けて言った。気がつくと混沌としたムラにいた。石斧を左手に持っていた。
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