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フロム・ダウンダウン【400字小説】

包丁で切ってしまった指先が痛む。我慢できないほどではないのに、マキヨにとっては煩わしくて仕方ない。「そんなこと言ってもしょうがないよ」とマキヨは夫に言われて、うんざり。
「小さい傷だけれど痛むのよ。そういう経験あるでしょう。少しはわかってよ」
「俺がピッチャーだった頃はマメができようが投げなきゃならなかったよ。エースだったからね」
「どうしてそんなふうにして話を混線させるの?」
洗い物が溜まっていて夫に手伝って欲しかっただけなのに、喧嘩が始まりそう。仲良くバスケの話がしたかった。パリオリンピックでの河村勇輝の痛恨のあのプレイはファウルじゃなかったって議論したい。別に野球でも構わない。大谷くんの話なら少しはわかるからついていける。それはさておき、マキヨは「今日はほか弁にするからね」と白旗を。「レトルトカレーでいいよ」って夫は言うから、やさしさを履き違えてる!って、怒りたかった。指先がじんじん痛んだ。

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