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55danyl
(無題⑤)【400字小説】
お重にいろいろ詰めて桜の木の下に集まる/
あの人が来るっていうから、張り切って腕ま
くり/桜はもう散ってしまったことは悲しい
けれど、あと少しすれば、あの人が好きな夏
が来るのは、私も嬉しい/汗が嫌い、太陽の
光は似合わない、私は/そんな自分が、夏を
待ち遠しく思うって、恋は尊いね/もう人生
の終盤だから、若い頃のように、ときめくこ
とは二度とないって/でも、寂聴先生が言っ
ていたみたいに寿命尽きるまで、恋する可能
性は/私にもあって幸運/実らない恋だとは
覚悟している/愛している奥さんがあの人に
いて、そのことを自慢げに話す笑顔を憎たら
しいくらいに好きでいる/亡くなった夫は私
を大事してはくれず/ほかに女を作って遊び
呆けて、子育ても、ろくに/桜の名前をつけ
た娘は沖縄に移住してしまって、飛行機でも
たどり着くことはできないわね/孤独だから
/あの人に会いたい/風呂敷で包む時にお重
の角に傷があることを/だけど目を瞑った/
❏❏❏