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王様の耳はロバの耳、我慢の限界【400字小説】

理容師という仕事は会話術だ。昨日、髪を切った女性は切りはじめてすぐに失恋したことを悟った。吐き出させた方が良いと感じたので言葉を選んで、それとなく誘導した。すると、すんなり告白して泣き笑った。王様との会話も同じで、言葉を吟味して慎重に髪を整えていく。耳は立派でうっとりする形をしていた。隠すことはないとずっと思っている。「その耳は庶民の意見を聞くために大きいのです」と何度喉元まで出かけたことか。でも、人格者の王様でも逆鱗に触れたら何をされるかわからない。しかし、言いたくてしょうがなくて困っていることも真実。今日の午後も散髪の日。「きみ、最近、悩みはあるのか?」と聞かれ、「わたしを苦しめているのは王様です」と言って首を絞めたかった。わたしの会話術をもってしても、すっきりできない。だから、ハサミを持つ右手に殺意。それははっきりしたもので、王様に切りかかったりする前に医者に絶対相談しようと決めた。

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