【血の粥】「自分が犯人を葬る」(31)
ところが「自分が怪奇事件の犯人を葬る」と口をついて出た。思わず「あれ? 待って」と自分で取り消したかったが、そんな空気ではなかった。集まったムラ民のひとりひとりからコバートに対する期待感だったり、すがる思いを感じたからだ。瞳には涙をためている者も。何百人ものムラ民に見つめられていた。それで(これは後に引けない!)という気持ちが乱暴にも生まれた。すると不思議なことに覚醒する自分にコバートは気づいた。ムラ民を導いていくという強く巨大な気持ちが生まれたのだ。「これがわたしの初めての仕事だ。どうか皆の力を貸して欲しい。必ずや解決してみせる」そういうとムラ民が野生のごとく吠えた。その地響きする声にコバートは恍惚感を覚えた。秘められた能力をムラ長に引き出してもらう時が来たと高揚した。しかし、それはコバートの真の気持ちではなく、操られたもの。ムラ長による、コバートへの、この機会でしか通じない呪術だった。
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