柔軟【400字小説】
みんなに嘘をついている。
みんなって誰?!
とか訊くのは野暮だね。
浮気はしないって
豪語しているけれど、
本当は、ほんの数年前まで。
彼女のことが好きで。
彼女も多分、好きでいてくれて。
なんで会わなくなったのかは、
時間の問題。
結婚していた、お互いに。
子どももいた、
あっちにも、こっちにも。
妻は薄々気づいているかもしれない。
怖いから訊かないでいるだけだと、私は。
もし「女の人と会ったりしてた?」と
訊かれたら、シラを切る。
それが残酷なやさしさ。
別に妻のことを
愛していないわけじゃない。
≪ホントに愛していたら、
ほかの女性と
逢瀬したりはしない≫って正論。
でもさ、生きてれば
正論で歩くこともできない
場合だってあるでしょうよ。
皮肉か、浮気相手と
会わなくなってから、
家庭は平安。
家族円満な分、
ますます彼女への未練も募る。
実は先日「今度会わない?!」って
不意打ちでLINEしたら、
既読スルー。
彼女の温かいやさしさ。
ふたつも同時に手にできない。
❏❏❏